■ひとつのことを磨き続けた「善逸らしい技」
我妻善逸は「雷の呼吸」の使い手で、元柱だった育手(そだて)によって鍛えられている。本来、雷の呼吸には6つの型があるが、善逸が使えるのは「壱ノ型 霹靂一閃」のみ。
このことから彼は落ちこぼれと言われても仕方ないが、善逸の師は「一つのことしかできないなら、それを極め抜け」「極限の極限まで磨け」と説く。
そして善逸は鼓屋敷の戦いに続き、「那田蜘蛛山編」(単行本4巻)でも単独行動中に蜘蛛の鬼と遭遇。毒に蝕まれて絶体絶命の中、気を失った善逸が見せたのは、やはり唯一使える剣技“霹靂一閃”だった。
しかし、那田蜘蛛山で善逸が繰り出したのは「霹靂一閃 “六連”」だ。
天に向かってジグザグに稲妻が舞い上がるかのような動きから、鬼自身が斬られたことを実感できないほどの驚異の速度で鬼の首を断ち切る。
「霹靂一閃 六連」は、鼓屋敷で披露した「霹靂一閃」とは明らかに異なり、おそらくは善逸自身が編み出したオリジナルの派生技だと思われる。
これは善逸が師から言われた「一つのことしかできないなら、それを極め抜け」という言葉を愚直に守った結果、誕生した技なのかもしれない。厳しい鍛錬に音を上げたり、逃げ出そうとしながらも、無意識のうちにこうした派生技を繰り出すまでに至るには、相当な努力をしてきたはずだ。
これまで人を信じては何度もだまされてきた過去を持つ善逸。それでも師の言葉を信じて努力を続け、さらなる派生技「霹靂一閃 六連」というカタチに昇華させた点にこそ、善逸という人間の本質的な部分が現れているように思える。
そこには不器用ながらも、ひとつの技を磨き続けて限界まで極めた男の「カッコ良さや魅力」が、たしかに感じられた。
(ふたまん編集部)