■現代のオープンワールドゲームで体感したい壮大すぎる名シナリオ
最後にご紹介するのは『ヘラクレスの栄光III~神々の沈黙~』です。本作は1992年にデータイーストより発売された『ヘラクレスの栄光シリーズ』の3作目であり、シリーズ最高傑作との呼び声も高い作品で、私はスーファミ史上最高のシナリオの完成度だと思っております。
正直、RPGとしての難易度は高く、こちらのレベルが上がれば敵も強くなっていくシステムや魔法を覚えるためにいちいち神殿に戻らなければいけない点などなど、プレイする上で不親切な点はやや多いです。それでもこのゲームが面白いとされているのは、それだけシナリオが魅力的であるからに他なりません。
ではどんな物語なのか。
舞台は古代ギリシア。人々は神々への感謝を忘れ、己の欲望のままに繁栄を続けており、地上の様子を見ていた創造主・ゼウスはこの先には破滅しかないと危惧していました。そうした人間の欲望のためにガイアが傷つき、地上の各地に穴が開き始め、そこから「死の世界」の住人たちが出現するようになってしまいます。地上が滅びに向かっていき、人々は神々に感謝を求めますが、神々は沈黙するばかりでした。
そんな中、地上に空いた穴から落ちた青年(主人公)がとある村で生き倒れていました。彼は穴から転落したにもかかわらず傷一つない不死身な体を持っていましたが、記憶を失っているようでした。
彼の記憶の手掛かりは、見覚えのない土地にアトラスの子孫を名乗る老人と子どもがいるという不思議な夢だけでしたが、生き倒れていた彼を助けた妖精にその夢にこそ記憶のカギがあるのではと言われ、自身の記憶を取り戻すための旅に出ることになります。
旅の途中、自分と同じ夢を見る仲間たちとの出会いや天空と地上を巻き込んだいさかいなどを重ねていき、そして主人公はこの世界のとんでもない真実にたどり着くのでした……。
あまりに壮大すぎて訳が分かりませんね。しかし、主人公が「記憶喪失である」ことが世界観を理解する上で非常に助けになってくれています。『ファイナルファンタジーⅩ』のティーダと似たような設定ですね。
ちなみにFFⅩも本作も野島一成さんがシナリオを手掛けてらっしゃいます。野島さんがシナリオを手掛けた作品は名作ぞろいなので、いろいろチェックしてみてはいかがでしょうか。
話がそれましたので本題に戻りますと、主人公が記憶喪失である=プレイヤーと同じ情報量になるので、物語を飲み込みやすく、また主人公に感情移入がしやすいつくりになっています。これは伏線が多く、どんどん広がっていく本作の物語を理解する上でとても重要な役割を担っています。
また、こういう話をすると「なんか難しそうだな」と思われてしまいますが、そんなことはありません。なぜなら本当に伏線の回収が丁寧で、風呂敷もきれいにたたまれるだけでなく「押しつけがましくない」からです。これは非常に重要。
どれとは言いませんが、何度も「仲間は大事なんだ!」とか「生きるって素晴らしいんだ!」というメッセージを伝えようとしてくる作品もある中で、神々と人間との対比や立場によって変わる見え方など、神話ではあるものの現代に生きるプレイヤーの心にも刺さる言葉や演出がそこかしこにあるのです。
最終版の伏線が回収された場面からエンディングに向けてのラストシーンは、本当に考えさせられますが、それをゲームのキャラクターが説教くさく説いてくることはありません。
これだけ完成されたシナリオを書くうえでどうしてもエゴが出てしまいそうになるところをグッとこらえ、物語としてプレイヤーに考えさせる余地を与えてくれたのはもはや常人の所業ではありません。神業です。本当にすごい。
はっきり言って、これ以上に素晴らしいシナリオのRPGはありません。少なくともスーファミRPGの中では屈指の名シナリオであると思います。ネタバレができないのでこれ以上の言及は控えますが、ただ一つ言えるのは、ゲームクリアまでの道のりが非常に困難であるということです。ここがとてもネック。
誰かにオススメするにはすこしハードすぎる側面もありますが、ここはあえてこの記事を読んでいるゲーム好きのみなさまにオススメさせていただきたいなと思います。
導入からエンディングまで、こんなに素晴らしいシナリオのゲームはなかなか出会えませんよ。責任をもってオススメします。難しくて、エンディングまでいけないよ!という方に関してはほんとすんません。
ということで、今回はスーファミ30周年の今、振り返りたい名作RPGを3本紹介しました。スーファミからRPGを遊び始めた私にとって、スーファミRPGはどれも思い入れが深い作品ばかりです。懐かしいなと思われた方、今日は久しぶりに童心に帰って、スーファミRPGを遊んでみてはいかがでしょうか?