■シミュレーションRPGというジャンルを確立

第1章「マルスのたびだち」より。誰に経験値を割り振るか考えながら進むのが楽しい。

 本作の発売以前の戦略シミュレーションゲームには『ファミコンウォーズ』などの名作タイトルがありましたが、「RPGらしさ」を感じさせてくれるものではありませんでした。

 そこでRPGの世界観が味わえるシミュレーションゲームとして発売されたのが『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』でした。

 みなさんはどういったところに「RPGらしさ」を感じるでしょうか?

 シナリオや育成、収集といった要素もとても重要だと思いますが、その要素を楽しむためにも「キャラクターに愛着を持てるか」がRPGにおいてとても重要で、それこそが「RPGらしさ」であると思います。

 そういった点で言えば、多くの「兵」が「駒」であるシミュレーションゲームではキャラクターに愛着を持つのはなかなか難しいですよね。

MAPは徐々に複雑化、地形効果など計算して攻略すべし。

 そこで、本作は仲間になるキャラクターに固有の顔グラフィック(ファミコン版の容量の関係で多少の使いまわしはご容赦)や性格・ストーリーを与えた上、「戦闘でHPが0になると生き返らない」という縛りを与えることで「RPGらしさ」を見事に体現しました。

 これまでのシミュレーションゲームでは特定のキャラクターの成長のために、幾千もの名もなきモブ兵士たちが散っていきましたが、本作では味方キャラクターに「モブ兵士」なるものはおらず、さらに言えば味方になるキャラクターは自らの意思でともに戦うことを選んだ者のみであり、かつお金で買ったりすることはできず「有限」であり、プレイヤーの任意のタイミングで増やすことなどはできません。

 つまり、これまで戦ってきた味方も「戦死」したらもう2度と蘇らないし(実は一部の例外がありますがここでは閉口しておきますね……)、不足分を追加することもできないのです。たとえそれがヒロインだったとしても……。

むやみに突っ込むと雑魚キャラに囲まれ……

 このシステム、燃えますよね。ここまで育て上げた・戦ってきた全員で最後まで戦い抜きたい、と思いますよね。それこそが「RPGらしさ」であると私は思うのです。

 簡単に物語の冒頭を説明します。

 主人公はアリティア王国の王子・マルス。『大乱闘スマッシュブラザーズ』でもおなじみですね。

 アリティア王国はドルーア帝国に占領されてしまい、マルスは祖国を追われる形で家臣たちと東方にある島国タリスに逃げました。その2年後、海賊たちが襲い掛かってきたことを知らせに来たタリスのお姫様・シーダに助けを求められたことを契機にマルスが立ち上がるところからゲームが始まります。

本作の主人公、アリティア王子・マルス

 プレイ開始時、マルスとシーダを含めた7人という小さな「軍」で海賊の討伐を始めます。

 ここからシーダの説得や物語の進行などにより味方が徐々に増えていくのですが、彼らには顔グラフィックと名前、ジョブのほかに「成長率」という隠しパラメータがあります。これがとても重要なポイントです。

 たとえば、最初から仲間にいるカインとアベル、ジェイガンの成長率についてみてみると、カインとアベルは主人公・マルスと同程度もしくはそれ以上のものがあり、育てていくとどんどん強くなるキャラクターですが、マルスの父・コーネリアス王の時代から王国に仕える老兵・ジェイガンの成長率は全キャラ中ワーストとは言わないまでもかなり低く設定されています。

 ジェイガンにいたってはレベルが上がったのに、パラメータが一切上昇しないこともしばしばあり、初見では「え?バグ?」と勘違いするかもしれませんが仕様です。もうおじいちゃんですからね。

 しかし、ジェイガンはゲーム開始時から上級職の「パラディン」に就いているため、序盤はかなり頼れる存在になっています。これがミソ。

序盤にお助け役として戦うジェイガン

 誰も育っていない序盤はかなり頼れるジェイガンですが、彼ばかりを前線に立たせて経験値を与えても成長が見込めず、本来伸びていくキャラクターがなかなか成長しないため、戦力がイマイチ高くならないまま先に進んでしまうのです。

 もちろんこの「成長率」というパラメータは目に見えません。今ではネットで調べることで一目瞭然ですが、当時のプレイヤーたちは「トライアンドエラー」で覚えていったことでしょう……。この「試行錯誤感」も本作ならではですね。

 ちなみに私の初プレイ時は、序盤で仲間にできるキャラクターのほとんどを見逃したばかりか、回復を怠った上に海上を進んできた敵兵にボコボコにされてカインを亡くすというとんでもないミスをしたため、普通にブチギレリセットしましたが、そのおかげで次回プレイ時にはとても慎重にプレイするようになり、初クリア時の感動はひとしおでした。

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