上田誠(写真/弦巻勝)
上田誠(写真/弦巻勝)
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 今回、『前田建設ファンタジー営業部』という映画に脚本で参加しました。ダムやトンネルを造っている『前田建設工業株式会社』という実在の会社に、「ファンタジー営業部」という部署ができた。いったい何をするのかというと、アニメの『マジンガーZ』の中に出てくる、地下格納庫を現実世界で建設しようというのですね。

 ちゃんと設計図を描き、工期や工費の見積もりもキッチリ出す……でも、実際には造りません(笑)。空想世界の建物を現実の技術で造ったらどうなるかを分析して、自社のウェブ上で発表するという企画でした。

 僕はもともと建設やファンタジーが好きだったので、このコンテンツを「おもろいなぁ」と読んでいたんですが、そこに舞台化のお話をいただいた。そして2013年、僕が代表をしている劇団「ヨーロッパ企画」で上演しました。

 ほぼ会社の中の会話劇だし、出演者のほとんどは20年くらい一緒にやっている劇団メンバー。この作品を演劇にするのは楽しい作業でした。ところが……映画となるとまた違う。「ずっと会社の中で繰り広げられるビジネスのお話を、スクリーンでどう見せたらいいんだ!?」と、僕は頭を抱えてしまいました。

 普通の演劇は、セリフに書かれた心情をいかに表現するかが大事になるんだと思いますが、僕はセリフにはあまり興味がない(笑)。役者があれこれしゃべるよりも、その人間が高いところに登っているとか、大量のそばを食べているとか、実際にやることのほうに心をひかれるんですね。心情よりも“実物”です。

 だから、僕が演劇の脚本を書くとき、最初に考えるのは「舞台美術」なんです。舞台美術を先に作って、実際に何をどう見せるのか――からスタートする。セリフを書くのは一番最後の作業。見せたい画があって、役者の動きがあって、それからようやく言葉をつけるんです。

 映画はなおさら、監督の撮りたい画に、物語をつけるのが脚本家の役割。だからこの作品は、非常に悩みました。でも、英勉監督の「今回は“熱演”を撮りたい」という言葉でフッきれた。出演者に熱演してもらえるようなセリフを書こうと思えたんですね。 

 なので、実話がベースとはいえ、現実のファンタジー営業部では起きなかった出来事も多々出てくる(笑)。でもその代わり、汗と涙の結晶である資料や図面、そして制作のプロセスだけは、全部本物を使っています。

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