――実際に現場を体験した湯浅政明監督の印象はどうですか?
頭の中に“浅草みどり”を持ってる人なんだと思いました。大きな声でたくさんお話をされるタイプではなく、いつも静かにほほ笑んでる監督なんですが、頭の中ではものすごい「最強の世界」が広がってるんだろうなって思ってます。
――今回、伊藤さんは浅草みどりの声だけでなく、「タタタタタ」「ババババババ」など妄想シーンのSEも担当されています。声でSEを表現するという演出も湯浅監督のアイデアだそうですね。
どうなるんだろうって、頭にハテナを浮かべながらやってました(笑)。実はあのSEは湯浅監督の実演があって、突然収録スタジオに入ってきて、自分でやってみせてくれたんです。すごく恥ずかしそうにしながら「ばばばばばばば」って(笑)。しかもそれが可愛らしくて。音響監督の木村さん(木村絵里子)に、「さっきやってたほうが上手かったですよ」って突っ込まれてモジモジしたり。
それを見かねた原作の大童さんが、これまた「ちょっと僕の中のSEをやります」ってやってくれたり(笑)。みんなの思いがたくさん詰まったSEなんです。ぜひ注目して見てください。
■声優は「足し算」、アフレコで“怖さ”が伝わらなかった
――放送後、伊藤さんの浅草みどりの声がピッタリだと話題となってます。女優と声優の違いについて、どう捉えていますか?
そうですね。アプローチの仕方自体が違って、俳優の演技法は「引き算」で声優は「足し算」だと思うんです。まず大きめに演技プランについて考えた後で削っていくのが、いつもの俳優としての仕事で、声優では逆に自分でも大げさかなと思うぐらいでアプローチするとOKをもらえたりするんです。
先日、浅草が「怖い……」ってビクビクするシーンがあったんですが、何回アフレコしても“怖さ”が伝わらなかったんです。自分の中で、完璧に「怖い」ってイメージしながら演じたんですがダメで。どんなに私が力を入れて、体をこわばらせても声としては表現しきれない。極端に言うと、声を震わせるぐらいのいきおいで「怖い……」ってつぶやかなければ伝わらないんです。浅草の声を演じることは毎日すごく楽しいですが、声ひとつで彼女の感情や状態すべてを表現することにまだ苦心してます。