■己の信念を貫いた美しき武人…魚座のアフロディーテ
魚座(ピスケス)のアフロディーテは、「美の戦士」という肩書通りの美貌を持ちながら、圧倒的な実力主義を掲げるリアリストです。車田先生の代表作『リングにかけろ』の美形キャラ・ビーナスと肩書きをはじめ類似点が多く、読者はアフロディーテも心優しいキャラを想像したため、意外なギャップに驚かされました。
デスマスクと同様に教皇の正体を知りつつ、「圧倒的な力こそが地上に平和をもたらす」という考えでサガに手を貸します。かつて赤子であるアテナの無力さを批判したのも、自分が思う平和主義ゆえ。彼が語った「力こそ正義」とは、単に弱肉強食の肯定ではなく、「強い力を持つ者には、相応の重い責任が生じる」という責任論でもありました。
その優雅な外見によく似合う技「ロイヤルデモンローズ」をはじめ、凶悪なバラの技を操り、最後まで己の信念に迷いを見せなかった姿は、本質的には極めて硬派な武人といえるでしょう。
一方、アニメ版ではかなりナルシストな性格にアレンジされ、『タッチ』の上杉和也役でも知られる難波圭一さんがその美声を響かせました。
■「神の化身」が魅せた光と影…双子座のサガ
いわゆる「謀叛組」の頂点であり、絶対強者として君臨したのが双子座(ジェミニ)のサガです。善と悪の2つの人格を持つ苦悩と、「悪のカリスマ」としての圧倒的な存在感もあって、当時の読者に「双子座=二重人格」というイメージを植えつけました。
サガの悪の人格はビジュアルの変化が衝撃的でした。原作漫画では、神々しい金髪から、禍々しい漆黒の髪と赤い眼球に変質し、異様な恐ろしさを演出します。
アニメ版では髪色が青から灰色へ変わり、アニメオリジナルの設定である「アーレス教皇」の不気味な仮面も相まって視聴者を圧倒しました。何より、声を担当した曽我部和恭さんの怪演が光ります。善の人格時の神聖な響きから、ドスの効いたビブラートボイスに豹変する演技は鳥肌モノでした。
この善悪の心に苦悩していたサガと対照的だったのが、悪の心しか持たない双子の弟・カノンの存在です。当時は「二重人格だから双子座だったのか」と思いきや、のちに双子の弟であるカノンが実際登場したことに驚いたファンも少なくなかったはずです。
アニメ版では、カノンの声も曽我部さんが一人二役(三役)で演じ分け、血を分けた双子ゆえのドロドロした因縁と、のちに両者がアテナのために命をかけて戦う壮大なドラマをつなげました。
サガの本質的な魅力は、原作漫画で明かされた絶望的な悲劇にあります。アイオロス粛清や教皇(シオン)殺害など、悪の人格が犯した大罪を、善のサガはすべて自覚しながら13年間も人知れず涙を流し続けていたのです。
過酷な宿命の中でもがき苦しみ、最後は自らの拳で悪を断ち切るという壮絶なドラマがあったからこそ、双子座のサガはファンのあいだでいまだに語り継がれるのでしょう。
星矢たちの前に立ちはだかった黄金聖闘士の悪役たちは、決して「倒されるためだけの敵役」ではありませんでした。
彼らはそれぞれの美意識と信念、そして高い実力を持つヴィランとしてしっかり爪痕を残したからこそ、聖域十二宮編をはじめとする物語は不朽の名作となったのです。


