あだち充氏による高校野球を舞台にした青春ラブコメの傑作『タッチ』は、主人公・上杉達也とヒロイン・浅倉南が結ばれるという、感動的な大団円で幕を閉じた。幼い頃に交わした「南を甲子園に連れてって」という約束を達也が果たし、胸を張って南に告白するクライマックスは、文句のつけようがない完璧なハッピーエンドといえる。
だが、美しく完結した物語だからこそ、「その後」を見たいと願うのが、読者のわがままであり願望だ。たとえば、明青学園を全国制覇に導いた達也の甲子園でのピッチングはどうだったのか、プロ入りを断念した達也は野球を続けたのか、そして南との関係はどうなったのか……など、気になる点は尽きない。
これらはいずれも、漫画『タッチ』の中では描かれていない。しかし実はオリジナルアニメや、続編的な作品において、断片的にではあるが彼らの未来が垣間見えるのだ。
今回は、『タッチ』ファンなら誰もが気になってしまう「達也のその後」を追いかけてみよう。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■大学に入って野球をやめてしまった達也
漫画の最終回では、1年間のドクターストップでプロ野球入りを断念した達也。その3年後を描いたのが、1998年に放送されたアニメのオリジナルエピソード『タッチ Miss Lonely Yesterday あれから、君は…』である。本作では、大学に進学した達也の姿が描かれている。
大学生になった達也は野球を辞めてしまい、目標もなくぶらぶらする日々を送っていた。その背景には、亡き双子の弟・上杉和也の存在があった。自分が野球を続ける限り、悲劇的な死を遂げた和也の名前も並んで語られてしまう……その状況に嫌気が差したのである。
さらに、南とは別々の大学に進学したことで、2人の間には距離が生まれていた。恋も野球もうまくいかない日々の中、達也は水野香織という女子大生と親密になっていく。南とすれ違う場面が描かれ、ヤキモキさせられたファンも多いだろう。
この状況を変えたのが、中学時代からの親友・原田正平だ。彼の「和也と関係ない野球を探せばいい」というアドバイスで吹っ切れた達也は、和也の存在を知る者がいないアメリカへと渡り、野球を続ける決意を固めるのである。
南との間に生じていたわだかまりも、物語のクライマックスで南から「浅倉南は上杉達也を愛しています」という感動的な“逆告白”を受けて解消。こうして、恋も野球も無事に元の鞘に収まった。
途中のもどかしい展開があるからこそ、この名ゼリフに象徴される結末の爽やかさが際立っており、実に秀逸なオリジナルエピソードだった。
■マイナーリーグではリーグ優勝を決める大活躍
『Miss Lonely Yesterday』の続編として、2001年2月9日に放送されたのが、『タッチ CROSS ROAD 風のゆくえ』だ。このアニメでは、達也がアメリカのマイナーリーグで野球に打ち込む物語が描かれた。
誰も和也のことを知らない土地で、自分の野球を探す決意を固めた達也は、解散寸前の弱小球団「グリーンエメラルズ」を優勝に導くことになる。
かつて甲子園のスターとなった達也のピッチングは、野球の本場アメリカでも通用し、猛威を振るう。初登板でいきなり完封勝利を飾ると、シーズンを通して勝率・防御率でリーグトップの好成績を記録。マイナーリーグとはいえ、20代前半の日本人選手としては異例の大活躍を見せる。
さらに球団の存続がかかった優勝決定戦では、リーグ最強の強打者・ブライアンをフォークで三振に切って取る大金星を挙げてみせた。高校時代は満足に投げられなかった変化球で試合を決めるシーンからは、達也が過去を乗り越え、自分だけの野球を確立させた成長が感じられた。
マイナーリーグでこれほどの活躍を見せた達也であれば、翌年はメジャーリーグに昇格できたかもしれない。物語は、カメラマン見習いとして彼を取材に来た南とキスする瞬間で幕を閉じるが、さらにその先の活躍も見たかったと感じたのが、筆者の本音である。


