■初期の読切作品にもつながる見事な伏線回収
本作『勇者アバンと獄炎の魔王』では、ブラスがハドラーから「デルムリン島に危険が及んだ場合に使うように」と、魔界のモンスターが入った「金の魔法の筒」を授かるシーンがある。
このアイテムは、本編連載前に発表された読切作品『デルパ!イルイル!』でブラスがダイに託したものと同一であり、古くからのファンにとっては思い出深い伏線回収となっている。思わず筆者も懐かしさを感じてしまった。
さらに、勇者アバン抹殺のためパプニカ王国へ送り込まれたキラーマシンは、アバンとロカによって倒されるが、その残骸は王の側近・テムジンによって回収・分析される。
このテムジンこそ、読切作品『ダイ爆発!!!』でパプニカの司教として登場し、賢者バロンとともにキラーマシンをデルムリン島に送り込んでレオナ姫の暗殺を企てた悪者だ。この描写により、「パプニカの一司教がなぜキラーマシンを持っていたのか」という謎が見事に解明された。
また、読切作品でバロンが魔法の筒から出した「魔のサソリ」も、本作のハドラーとの最終決戦で登場。パプニカ兵と同行していたテムジンに回収される様子が描かれている。
テムジンの暗躍を通じて初期の読切作品の伏線まできっちりと回収する構成は、実に見事であった。
■クロコダインとハドラーの関係や、マトリフの逃げ戦法「ルーラ」
本編『ダイの大冒険』では、アバンが「凍れる時間の秘法」でハドラーとともに凍り付いた後の経緯は詳しく語られていなかった。本作では、マトリフが両者を別々の場所に隠したこと、そしてクロコダインが結界に守られたハドラーを地下から救出し、魔王軍の本拠地に送り届けたことが明かされている。
蘇ったハドラーがクロコダインに感謝するこのエピソードは、本編で描かれた両者の信頼関係の礎を裏づけるものとなっている。
また、マトリフは凍ったハドラーを消滅させるため、極大消滅呪文「メドローア」の修行に励んでいた。その際、呪文の反動で焦げた腕を冷やす仕草が、のちの弟子・ポップとまったく同じであり、ファンにとってはたまらない演出となっている。
さらに、サババでの戦闘においてマトリフは傷ついた仲間たちを救うべく、瞬間移動呪文「ルーラ」を使って窮地を脱出する。これも本編で「ルーラは戦闘の役に立たない」とぼやいたポップに対し、「ルーラが使えたら仲間を救えたこともわからんのか」と、マトリフがきつく叱ったことにつながっており、彼の言葉に説得力をもたらす描写なのである。
このように『勇者アバンと獄炎の魔王』は、本編『ダイの大冒険』の多くの謎を解き明かしてきた。だが、まだ描かれていない重要なエピソードも残されている。
その1つが、本編で多くの読者が疑問に思った「アバンはなぜ川に落ちてしまったヒュンケルを助けに行かなかったのか」という点だ。彼の性格を考えれば、自分の身をなげうってでも助けに行きそうなものだ。
また、アバンが親友ロカの死をどのように乗り越えたのかも描かれていない。彼の娘マァムを弟子として育てているが、母レイラの想いを考えれば危険な戦いから遠ざけそうなものである。
ポップを弟子にした経緯もそうだ。アバンの強さに感激して家出同然でついてきたポップを、人格者であるアバンがなぜ両親の元へ戻さなかったのか、という点も謎である。せめて親の同意を得てから同行させてもおかしくないだろう。
これらの出来事を踏まえてアバンにどのような心境の変化があったのか、今後作中で解き明かされるのかもしれない。ファンとしては思わぬ伏線回収を楽しみにしながら、物語が完結するまで見届けたいものである。
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