■差別主義者から、命をかけて他者を守る聖人へ

 作中屈指の嫌われ者といえば「天竜人」の一族だろう。世界政府を樹立し、この世を作った最初の20人の王の末裔という肩書から世界の支配者のように振る舞い、その権力を利用した横暴な行動が目立つ。

 ドンキホーテ・ミョスガルド聖もそんな天竜人の1人として、魚人島編の回想シーンで初登場した。そのときのミョスガルドはスタンダードな天竜人で、一般人を見下し、奴隷制度を当然のものと考える差別主義者だった。魚人島で難破した際、「魚人臭い」などと露骨な差別発言も繰り返している。

 そして魚人たちの恨みを買って反撃されそうになったときも「何だ?わちきは偉いのに…!?」と、魚人が怒る状況を飲み込めない様子だった。

 しかし、人間と友好的な関係でいたいリュウグウ王国のオトヒメ王妃に助けられ、彼女との数日にも及ぶ対話の末、ミョスガルドは改心する。

 そんな彼が再登場を果たしたのは、世界会議(レヴェリー)編だ。マリージョアに向かうしらほし姫を天竜人のチャルロス聖が奴隷にしようと襲いかかった時、ミョスガルドが身を挺して守る。

 「亡きオトヒメ王妃に諭され人間にして貰った」と語るミョスガルドは、チャルロス聖を殴り倒した。その顔つきは以前とは別人のように精悍で、オトヒメの教えを胸に弱者を守る覚悟を持つ人物へと変貌していた。

 天竜人という立場でありながら、世界貴族に「ノブレス・オブリージュ」の精神を取り戻させようと奮闘するミョスガルド。会議中は、しらほし姫たちに危害が及ばぬよう取り計らってもいた。

 再登場によってイメージがガラッと変わるどころか、天竜人という作中最悪の極悪な存在から改心したミョスガルド聖。しかし、そんな彼は天竜人を襲った犯人を故意に逃がした罪により、神の騎士団によって処刑されるという悲しい最期を遂げている。

 天竜人でありながら説得によって改心する可能性を見せてくれた貴重な存在だっただけに、彼の死を悲しんだ読者は多いことだろう。

■不気味な暴君から、娘を愛し弱者を救う悲劇の父へ

 ヘルメッポやミョスガルド聖のように、初登場時に読者から嫌われたわけではないが、再登場時に明かされた真実によって評価が一変した人物もいる。それが元王下七武海にして、ソルベ王国国王でもあったバーソロミュー・くまだ。

 彼の初登場は空島編で、無口で無表情な姿から「不気味」「何を考えているか分からない」という印象を持った読者も多かっただろう。続くスリラーバーク編ではモリアを倒し、疲労困憊だった麦わらの一味の前に突如現れ、瞬く間にほぼ全員を戦闘不能にする。さらにシャボンディ諸島編では、一味を世界中にバラバラに飛ばした張本人であり、完全に敵として描かれていた。

 だが、物語が進むにつれてくまの真実が明らかになり、彼に対する印象が一変する。実はくまは革命軍の幹部であり、ルフィの父であるドラゴンの同志だった。そして、彼が麦わらの一味をバラバラの場所に飛ばしたのも、この先新世界へと向かう彼らが相応の実力を身につけるための配慮だったことが判明する。

 しかも、彼が世界政府の意向に従わざるを得なかった悲劇的な過去も最近の章で語られた。

 彼はバッカニア族という特殊な種族であり、ソルベ王国の国王だった経歴を持つ。そしてルフィと同じ最悪の世代の1人であるジュエリー・ボニーは彼の娘であり、難病にかかっていた彼女を救うため、やむなく世界政府との取引に応じ、命令に従っていたのである。

 エッグヘッド編にて、くまの過去が詳細に語られたことにより、初登場時の不気味な暴君というイメージは完全に覆され、自己犠牲の精神を持つ父性愛に満ちた英雄として再評価された。


 ヘルメッポ、ミョスガルド聖、バーソロミュー・くまの3名は、いずれも最初は「嫌なヤツ」や「敵」として描かれながら、のちに読者の評価が一変した人物たちだ。

 今回挙げたのはあくまで一例にすぎず、今後の展開次第で過去の評価が変わるキャラクターもきっと現れるはず。悪人に思えた人物の裏側が明かされ、もしかすると麦わらの一味の味方になるような展開もないとはいえない。こうしたキャラクターの多面性こそが、『ワンピース』という物語の奥深さにつながっているのかもしれない。

 

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