1980年代を象徴するものとして、「角川映画」ははずせません。
強力なメディアミックス戦略で知名度をあげていった角川映画は、『犬神家の一族』(1976年)を皮切りに、薬師丸ひろ子さんをスターダムに押し上げた『セーラー服と機関銃』(1981年)、原田知世さんに日本アカデミー賞をもたらした『時をかける少女』(1983年)など、実写映画が次々ヒット。テレビや街中で角川映画のCMや広告を見ない日がないほどでした。
そして当時の角川映画は、実写だけにとどまらず、アニメーション分野にも意欲的に進出。『幻魔大戦』(1983年)や『ファイブスター物語』(1989年)など、現代のクリエイターにも多大な影響を与えた「オーバーテクノロジー」のような傑作を次々と生み出したのです。
そこで今回は、当時の劇場で迫力ある映像や音響に熱狂した筆者が、もっと評価されてもいいと感じた角川アニメの「知られざる意欲作」を振り返ってみたいと思います。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■「口移しにメルヘンください」大林宣彦監督唯一の劇場アニメーション作品『少年ケニヤ』
1980年代前半は、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙(そら)編』(1982年)、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』(1983年)などのアニメ映画が大ヒットを記録。空前のアニメブームに沸く1984年、角川アニメ映画『少年ケニヤ』が公開されました。
山川惣治さんによる伝説の絵物語を原作に、「映像の魔術師」と呼ばれた大林宣彦さんが初の劇場アニメ作品を担当。共同監督には『キャンディ・キャンディ』などのチーフ・ディレクターを務めた今沢哲男さん、アニメーション制作は東映動画が担当しました。ちなみに同時上映は『スヌーピーとチャーリーブラウン』です。
物語の舞台は1941年。第二次世界大戦の影響で、ケニアの奥地で父親と離れ離れになった少年・ワタル(声:高柳良一さん)は、マサイの長に救われ勇猛な戦士へと成長します。やがて金髪の美少女ケート(声:原田知世さん)と出会い、恐竜や巨大生物がうごめく秘境で父親を探すなか、さまざまな陰謀に巻き込まれていく冒険譚です。
大林監督といえば「尾道三部作」をはじめ、80年代の日本映画界を席巻した青春映画の旗手。『ねらわれた学園』や『時をかける少女』などの青春SF作品をヒットさせ、角川映画の黄金期を支えた1人でした。
『幻魔大戦』(1983年)に続く角川アニメ映画の第2作目として公開された本作。前年の『幻魔大戦』ほど興行収入は伸びませんでしたが、当時10代だった筆者は、独特の映像表現に衝撃を受けました。
冒頭、レトロな書斎の実写映像からはじまり、背景には物語の挿絵映像が映し出されます。男性が地球儀を回すと、徐々にアフリカの大地が広がり、アニメ映像に切り替わってタイトルが表示される演出は目を引きました。
渡辺典子さんが歌う主題歌が流れると、躍動感あふれる黒い線画から、アフリカの動物たちが映し出されます。この線画描写は作中で効果的に使われており、暗闇でサイに襲われるシーンや、草原をさまようワタルの頭上を舞うハゲタカなど、色がないことによって不安感を一層かき立てられました。
大林監督ならではの色彩感覚と、幻想的で歪んだ空間演出をアニメーションという自由な筆致で実現。個人的には、これまでの実写映画でも見られた大林監督らしい「漫画的な効果」も、アニメ作品との相性の良さを感じました。
また、テレビCMで何度も耳にした主題歌のフレーズも、思春期だった筆者は得も言われぬドキドキを感じたものです。
物語自体は荒唐無稽な冒険活劇ですが、単なる子ども向けアニメにとどまらない「毒」や「美意識」などが混在しています。恐竜や大蛇といったクリーチャーの造形や動きも見事で、今見返してもその迫力に圧倒されます。実写とアニメの垣根を超えようとした、角川映画の意欲が感じられる109分でした。
余談ですが、本作の公開翌日に宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』が公開されました。そちらの大ヒットの影に隠れてしまったことも、不運だったのかもしれません。


