■「突然って、きらいですか…?」バイク好き少年を描いた青春アニメ『ボビーに首ったけ』
次に取り上げたいのが、1985年公開のアニメ映画『ボビーに首ったけ』です。片岡義男さんの短編小説を原作とし、キャラクターデザインに吉田秋生さんを迎えた本作は、当時の「シティポップ」な空気感をそのまま閉じ込めたような、極めてスタイリッシュな青春映画でした。
バイク好きの高校生「ボビー」こと野村昭彦(声:野村宏伸さん)の元に、見知らぬ少女・中原咲美(声:村田博美さん)から手紙が届きます。面識のない2人は文通を通じて交流を深めますが、父と折り合いの悪い昭彦は家を飛び出し、友人のアパートに転がり込むことに。そして咲美と電話することを約束していた日、昭彦はバイト先の店長・木田(声:根津甚八さん)とツーリングに出かけてしまうのです。
本作で特筆すべきは、各シーンにおける「空気の描写」です。真夏の陽炎、排気ガスの臭い、そしてカセットテープから流れるおしゃれな音楽。ストーリーを追う以上に、その場面ごとの「瞬間」を切り取って共有することに重きが置かれているようでした。
たびたび挿入される吉田秋生さんのアートはポップで愛らしく、一方バイクなどのメカ描写は精密でした。特に印象的だったのが、海岸でモトクロスを目の当たりにした時の昭彦の表情で、いまだにあのシーンは忘れられません。
「突然って、きらいですか…?」という、少し大人びた少女からの手紙の一節は、全国の少年たちの胸を焦がしたことでしょう。44分というそこまで長くない作品ながら、80年代のきらめきが凝縮されています。今、昭和レトロやシティポップが再評価されていますが、その源流ともいえる描写が間違いなくこの中にありました。
キャラクターデザインの吉田秋生さんといえば、その後大ヒットする『BANANA FISH』の印象が強いかもしれませんが、この頃は『カリフォルニア物語』をはじめ青春群像劇で評価の高い若手漫画家でした。
監督の平田敏夫さんは虫プロの出身で、その後実験的アニメーションに挑戦しつつレナウンなどのテレビCMを手がけています。また、エンディングのイメージデザインには、わたせせいぞうさんが参加。当時の流行を切り拓いたクリエイターたちが勢ぞろいしていました。
ただ同時上映の『カムイの剣』(監督・りんたろうさん/原作・矢野徹さん)が132分の超大作で、広告などもそちらがメインだったため、『ボビーに首ったけ』はそこまで目立たなかったのが非常にもったいなさを感じました。


