■もはやギャグ漫画? “よそ見”をしながらも圧勝

 ボクシングに対しては常に真剣な鷹村だが、時に観客や読者には「ふざけている」としか思えない試合を見せることも少なくない。そして、そういう試合こそ、彼の常人離れした能力が発揮されていたりする。

 その象徴的な試合が、第464話で見せた“よそ見”の失敗だ。これは、後輩ボクサーである青木勝の奇策“よそ見”に影響されたもので、試合中に顔だけでなく体ごと横を向く暴挙に出る。

 本来、青木の“よそ見”は人間の反射を利用して相手の意識を外に向ける技なのだが、鷹村ほど大袈裟に実行すれば、それは単に隙を見せるだけだ。案の定、ツッコミが如き強烈な一発をお見舞いされ、一瞬意識が飛ぶ失態を見せてしまう。

 だが、これで終わらないのが鷹村だ。意識を取り戻したとたん、鋭い動きで相手のラッシュをすべてかわし、すぐさまお返しの右ストレートと打ち下ろしの2発を叩きこむ。「めきめきめきっ」という嫌な音とともに、リングに叩きつけられた相手は動かなくなり、鷹村は圧巻の逆転勝利をおさめた。

 自信満々に「こんなもんだ!!」と勝ち名乗りを挙げるも、返ってきたのは観客からの「ボクシングをナメやがって」という罵倒だった……。ちなみに、この試合が世界タイトルの防衛戦であったことも付け加えておく。

 繰り返すが、鷹村はボクシングに対し、真摯な男である。だが、本人が規格外すぎるせいで突拍子もない思いつきを実行してしまい、それが失敗すると「ふざけている」としかいえない試合展開になってしまうのだ。それでも最後は勝つのだから、さすがは鷹村守というべきだろうか。

 

 こうして鷹村が圧勝した試合を振り返ってみると、彼と対等に戦えるのは世界チャピオンクラスの傑出したボクサーだけであることが分かる。実際、初の世界タイトルマッチで戦ったブライアン・ホークや、その次のデビット・イーグルといった強者との試合は壮絶を極めた。

 『はじめの一歩』では、世界の舞台で戦えるボクサーは「人外」の領域に足を踏み入れた者だけ、という考えがある。人の常識を超えた力を持つ怪物同士がしのぎを削る場所こそが世界の舞台であり、鷹村はまさしくその世界の住人なのだ。

 

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