深い親子愛「おばあちゃん」に親友との悲しい別れ「笑い上戸」も…『ブラック・ジャック』読者が忘れられない珠玉の「泣ける話」の画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第21巻 (手塚プロダクション)

 1973年から『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて連載された、手塚治虫さんによる『ブラック・ジャック』。天才的な腕を持つ無免許医のブラック・ジャック(以下B・J)が、毎回さまざまな患者の命と向き合う1話完結型のヒューマンドラマである。

 本作にはハッピーエンドもあれば、救いのない残酷な結末を迎えるエピソードも存在する。しかしその一方、読み終わったあとに胸がジンと熱くなり、涙を誘う感動的なエピソードも数多く描かれている。

 今回は数あるエピソードの中から、読者の心を揺さぶる珠玉の「泣ける話」を厳選して紹介したい。

 

※本記事には作品の内容を含みます。

 

■“命の値段”ではなく“覚悟の値段”…母の愛と息子の決意が胸を打つ「おばあちゃん」

 『ブラック・ジャック』の中でも屈指の感動作として名高いのが、エピソード「おばあちゃん」だ。

 ある日、B・Jが車に乗せた夫婦の家には、嫁に小遣いをせびっては「金、金」と口うるさく言う、金にがめついおばあちゃんがいた。不審に思った息子がこっそり母の後をつけていくと、彼女がある屋敷でお金を渡している場面を目撃する。

 それは、30年前に息子を難病から救ってくれた名医・甚大先生への、1200万円にものぼる高額な治療費の返済だったのだ。母は家族に何も言わず、雪の日も嵐の日も血のにじむような思いで働き続け、ついにその日、最後の返済を終えたのである。

 息子が真実を知って号泣した直後、まるで肩の荷が下りたかのようにおばあちゃんは脳溢血で倒れてしまう。主治医となったB・Jは、息子に「治る見込みは少ない。だが、もし助かったら3000万円いただくが…あなたに払えますかね?」と問う。一瞬驚くも、息子は「一生かかってもどんなことをしても払います! 」と即答。それを聞いたB・Jは、静かに「それを聞きたかった」とつぶやくのであった。

 この3000万という途方もない金額は、単なる“命の値段”ではないだろう。それは、自分に一生を捧げてくれた母を救うための“息子の覚悟の値段”なのだ。親が子を想う無償の愛と、それに応えようとする息子の決意。病を通して描かれる、深い親子愛が胸を打つ名エピソードである。

■悲劇の中でも友へ送った最期の感謝…胸が締め付けられる「笑い上戸」

 B・Jの数少ない友人であり、彼に“笑うこと”の大切さを教えた少年・ゲラ。彼との悲しい絆を描いたエピソードが「笑い上戸」だ。

 ゲラは親に夜逃げされ借金取りに追われるという過酷な環境にありながらも、いつも大声で笑っていた。そんなゲラに対し、父親に対する復讐心に囚われていた当時のB・Jは当初反発を覚える。しかし「せっかくいいお医者がキミをちゃんと治してくれたのに」と屈託なく笑う彼の不思議な魅力にひかれ、2人はやがて親友となった。

 しかしある日、借金取りがゲラに襲い掛かり、B・Jが持っていたダーツが原因でゲラは喉を刺されてしまう。この事故でゲラは重傷を負い、遠くの療養所へ送られてしまうのだ。

 8年後、天才外科医となったB・Jはゲラを探し出し、彼が再び笑えるようにと人工気管支の手術を成功させる。しかし、ゲラは術後の二次感染が原因で高熱を出し、亡くなってしまう。療養所の医師によれば、ゲラは死の直前、鳥のさえずりが止まるほどの豪快な笑い声を響かせ、息を引き取ったという。

 療養所の医師から「先生の手術のおかげで笑えたのです」という言葉を聞き、うなだれるB・J。親友が原因の事故で人生が暗転したにもかかわらず、ゲラは決して彼を恨まなかった。そして最後に、“もう一度笑えるようにしてくれた感謝”を、精一杯の笑い声で伝えたのだろう。

 B・Jに笑い方を教えてくれた唯一無二の存在であるゲラ。あまりにも理不尽で悲しい2人の結末に、思わず涙がこぼれてしまう。

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