■蜜璃が鬼殺隊に入るきっかけを作った…見合い相手の青年

 「刀鍛冶の里編」で目覚ましい活躍を見せた恋柱・甘露寺蜜璃。彼女の運命を変えたのもまた“名もなき一般人”だった。

 かつて蜜璃は見合いをした経験がある。だが、桜餅色の髪や常人の8倍もの筋肉密度による怪力といった特異体質が原因で破談になってしまう。この時、見合い相手から「君と結婚できるのなんて熊か猪か牛くらいでしょう」「そのおかしな頭の色も子供に遺伝したらと思うとゾッとします」と心ない言葉を浴びせられている。

 深く傷ついた蜜璃はこれ以降、髪の毛を黒く染め、本来の自分を抑えるようになった。しかし、再び見合いの機会が訪れた時、一生自分を偽って生きていくことに疑問を感じ、ありのままの自分で人の役に立てる道があるのではないかと模索し、鬼殺隊への入隊を決意するのである。

 その後、蜜璃は柱まで上り詰めていく。もしも、最初の見合いで蜜璃が結婚していたら、鬼殺隊の戦力は大きく変わっていたかもしれない。そう思うと見合い相手の青年は、蜜璃を鬼殺隊へと導いた重要人物だったといえるだろう。

 上弦の肆・半天狗との戦いでは、蜜璃の存在がなければ勝利することは難しかった。“名もなき一般人”の心ないひと言は、結果的に蜜璃の、そして鬼殺隊全体の運命を大きく変えたといっても過言ではない。

■夢に入り込み、心を覗いた「無限列車」の乗客たち

 劇場アニメにもなった「無限列車編」に登場する“名もなき一般人”も印象的な存在だった。

 下弦の壱・魘夢が支配する「無限列車」に任務で乗車した炭治郎と善逸、伊之助、そして炎柱・煉獄杏寿郎。彼らの刺客として送り込まれたのが、魘夢に協力する名もなき少年少女だった。

 彼らは魘夢の血鬼術によって“幸福な夢”を見せてもらうことを条件に協力しており、眠らされた隊士たちの夢に侵入し、“精神の核”を破壊するよう命じられていた。この精神の核とは、破壊されると廃人になってしまうという恐ろしいものである。

 炭治郎は亡き家族と過ごす幸せな夢、杏寿郎は柱への昇進を父・煉獄槇寿郎に報告した過去の夢を見ていた。一方、善逸は想いを寄せる竈門禰󠄀豆子とデートする夢、伊之助は小動物になった仲間たちと洞窟を探検する夢と、その内容は思い出の回想や都合のいい幻など、それぞれの個性に合うものとなっていた。

 中でも、これまで謎に包まれていた杏寿郎の過去を回想する夢の内容は、父との複雑な関係性を明らかにするものだった。明るく快活な印象の強い杏寿郎の意外なバックグラウンドを知ることは、「無限列車編」のクライマックスで訪れる彼の最大の見せ場へとつながる重要なシーンだといえる。

 こうした杏寿郎の過去は、夢に潜入した“名もなき一般人”たちがいなければ覗き見ることはできなかった。そう考えると、彼らもまた本作において重要な役割を果たしたといえるだろう。

 

 主要人物の闘志に火をつけたり、心を和らげてくれたりと、彼らは“名もなき”キャラクターでありながら、本作においてのキーパーソンでもあった。

 ちなみに「藤の花の家紋の家」の老婆には「ひさ」という名前があることが『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』で明かされている。彼女のように、本編では語られない脇役の設定まで緻密に作り込まれている点も、『鬼滅の刃』という作品をより深く楽しめる一因だ。

 現在、地上波放送でアニメ版の全編再放送が始まっている『鬼滅の刃』。ぜひこの機会に、“名もなき一般人”にも注目して、見返してみてはいかがだろうか。新たな発見があるかもしれない。

 

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