■『サイレントヒルf』で描かれる男性目線の苦悩
しかも、時代は1960年代。男女の生き方が明確に規定されていた社会において、雛子のような価値観を持つ存在は、極めて生きづらかったはずです。
しかし、今作の魅力は女性側の視点だけではなく、性的役割に苦しむ雛子のように、父親もまた、「有害な男らしさ」に苦しんだ一人の男性として描いている点です。
父親は料理店を開くことを夢見ていましたが、信頼していた友人にこれまで貯めてきたお金を奪われてしまいます。さらに妻の病も発覚し、治療のために多額のお金が必要に。夢を失い、お金も失い、家族を守らなければならない現実に追い詰められた結果、父親の精神は壊れていきます。
雛子の目には最低な父親として映っていたかもしれません。でも、その裏には「守らなければならないのに守れない自分」という父親としての苦しみがあったでしょう。そこには、男性にも課された家父長制という呪いが確かに存在していました。
『サイレントヒルf』が描いたのは、1960年代の因習に満ちた田舎町の物語です。しかしそのテーマは、現代にも横たわる普遍的な問題でもあります。だからこそこの作品は、他人事ではなく、プレイヤー自身の問題として強く共感を呼び、発売とともに大きな話題となったのでしょう。
『サイレントヒル』という世界的タイトルが、これほどまでに生々しい社会問題を真正面から描いたことに、まずは敬意と感謝を述べたいです。
現代において、特にインターネット上では、フェミニズムは扱いが難しいテーマで、本来深められるべき議論が、しばしば場外乱闘や炎上へと逸れてしまいます。それにもかかわらず、ネットとの親和性が高いゲームという媒体で、このテーマに真正面から挑んだその覚悟は、本作を特徴づける重要な要素となっています。
そしてその描き方は、男性の視点から想像されたフェミニズムではなく、女性が実際に抱えてきた違和感を、雛子という存在を通して具体的に立ち上げている。だからこそ、同じ女性として不快感を覚えることなく、確かなリアリティを感じることができました。
これはあくまで、私という一人の視点から見た『サイレントヒルf』です。
当然ながら、さまざまな受け取り方がある上で、それぞれの「f」の答えを、ぜひ聞いてみたいと思いました。
【プロフィール】
宇内梨沙(うないりさ)
ポップカルチャーを心から愛する元アナウンサー。2015年、TBSテレビに入社。アナウンサーとして多数の番組を担当する一方、ラジオやYouTubeなどでゲーム偏愛を披露。2025年にTBSを退社し、現在は『Twitch』でゲーム配信者として活動中。


