■昔話ならではの理不尽さが胸をえぐる『深んぼのすげがさ』

 『深んぼのすげがさ』は、真面目に働く若く美しい嫁の悲劇を描いたエピソードだ。

 ある百姓一家に嫁いできた若い嫁は、野良仕事に不慣れで苦労しながらも、毎日1人で遅くまで残って田植えをしていた。姑からはいつも小言を言われながらも、新しい菅笠をかぶり、毎日一生懸命に働く。そんな彼女の心の支えは、自分のためにそっと風呂を沸かして待っていてくれる優しい夫の存在だった。

 やがて、田植えが終わる最後の日となり、残すは「深んぼ」と呼ばれる田んぼでの作業だけとなった。ここはもともと深い谷や沼であった底なしの場所で、丸太や竹を縦横に何本も沈め、足場を作りながら田植えをするため危険が伴う。

 嫁は夫を先に帰らせて1人で作業をするのだが、不運にもよろけて足場を踏み外してしまう。帰りの遅い嫁を心配した夫が迎えに行くと、月明かりに照らされた水面に嫁の新しい菅笠だけがぽっかりと浮かんでいたという。

 こうして理不尽にも田植えで命を落としてしまった嫁。この物語には、悪人や恐ろしい化け物が登場するわけではない。ただ真面目に働き、家族を思いやる善良な人間が、ほんの少し足場を滑らせただけであっけなく命を落としてしまう静かで残酷な物語なのである。

 昔の農村では、死が日常と隣り合わせにあり、こうした事故も決して珍しいことではなかったのかもしれない。因果応報などとは全く関係のない不条理な死が、かえって視聴者の心をえぐる話である。

 

 あまりにも救いのない結末に、思わず気持ちが落ち込んでしまうような悲しい昔ばなしの数々。しかし、こうした不条理な物語は、人生のままならなさや大自然の恐ろしさ、そして何気ない日常がどれほど尊いものであるかを教えてくれるようにも感じられる。

 改めて『まんが日本昔ばなし』を見ることで、現代人が忘れかけている生きる知恵を再発見できるのではないだろうか。

 

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