1975年から放送が開始され、長年にわたり多くの人々に親しまれてきたアニメ『まんが日本昔ばなし』。本作には温かいハッピーエンドの物語がある一方で、ただ真面目に優しく生きただけの人が全く報われず、悲劇的な結末を迎えるケースも少なくない。
そうした救いのないエピソードは、当時の視聴者の心に強烈なトラウマを植え付けた。今でも、そのようなエピソードを思い出すとやるせない気持ちになってしまうのだ。
今回は、そんな心優しい主人公に降りかかった「理不尽すぎるエピソード」を紹介したい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■「くらっ子けえせ!!」の悲痛な叫びが胸を打つ…『くらっ子鳥』
『くらっ子鳥』は「くら」という名の女性が、理不尽な目に遭うエピソードだ。 くらは立て続けに両親を失くしながらも、1人で一生懸命生きてきた娘だ。心優しい彼女は村人から愛され、庄屋さんの支援もあって良い婿を迎え、可愛い男の子にも恵まれて幸せを手にしたかのように見えた。
しかし、子どもが生まれて間もなく夫は急死してしまう。深い悲しみを抱えながらも、くらは幼い我が子のために必死で畑仕事に精を出した。村人が手伝いを申し出ても気を遣って断り、1人で赤子を背負いながら田植えを続けたのである。
やがて子どもが重くなると、くらは赤ん坊を田んぼのあぜ道に寝かせて作業をせざるを得なくなる。すると、突然現れた大ワシがくらの大切な赤ん坊をさらい、飛び立ってしまったのである。
くらは「くらっ子けえせ(くらの子どもを返せ)」と泣き叫び、着物がちぎれるのも構わずに大ワシを追いかけ続けた。だが、崖の上からくらは転落してしまう。そしてその体は1匹の鳥へと姿を変えた。
鳴き声が「クラッコー」と聞こえることから、その鳥は「くらっこ鳥」と呼ばれるようになり、今でもわが子を探して空を飛び回っていると伝えられている。
亡き夫の分まで我が子を愛し、真面目に生きようとしたくら。そんな彼女の唯一の支えであったであろう子どもが奪われる展開は、あまりにも救いがない。
村人たちの手伝いを断り、1人で頑張りすぎた結果がこの最悪の悲劇を招いてしまったのかもしれないが、なぜ彼女がこのような目に遭わねばならなかったのだろうか……。その理不尽さには、胸が締め付けられる。
ただ、物語の最後、くらは命を落としたわけではなく、赤い美しい鳥になって今でも空を飛んでいるという結末がせめてもの救いと言えるだろう。
■病気の母を救いたい…健気な姉妹を容赦なく飲み込む自然の無情『人形山』
富山県に伝わる『人形山』のエピソードは、母想いの優しい姉妹を襲った悲劇の物語である。
ある越中の村に、病気の母親と仲の良い姉妹が暮らしていた。2人の父親は早くに死んでしまっていた。
ある日、姉妹は夢枕に立った白山権現のお告げに従い山奥へ向かうと、そこには温泉が湧き出ていた。姉妹はその日から毎日母親を担いで温泉へと通い、そのおかげで母親の病気は快方に向かう。すっかり元気になった母の姿に喜んだ姉妹は、収穫の時期にふと思い立ち、白山権現へお礼参りに出かけるのだ。
しかし、その山には“女人禁制”という厳しい掟があった。そんなこととは知らずに山に入った姉妹は、帰り道に季節外れの吹雪に遭い、遭難して命を落としてしまう。
やがて春になり、1人残された母親が山肌を見ると、そこには手を取り合う2人の娘の姿(雪形)がくっきりと浮かび上がっていたのであった。
病気の母親を救うために尽くした姉妹が、ただ感謝を伝えに行っただけで掟を破ったとみなされたのか、命を落としてしまう結末はあまりにも理不尽だ。そして娘たちのおかげで命を長らえた母親だけが1人取り残されるという残酷な結末にも胸が痛む。
大自然の猛威に対し、人は無力である。親を想う優しい心が、そのまま死へと直結してしまうあまりにも可哀そうな物語である。


