■あと一歩だった…泥臭くも熱いベストバウト
日本ライト級1位にまで上り詰めた青木は、ボクサー生活6年目にして初のタイトルマッチに挑戦する。対戦相手は、2度目の防衛戦となる同級王者の今江克孝だ。
「努力家」を自称する今江と「研究家」を自負する青木。この両者は似た思考を持ちながらも、ボクシングに対する姿勢は対照的だ。青木が守るべき存在・トミ子のためにベルトを獲ると誓う一方、今江はボクシングに集中するために恋人・サチ子と一方的に別れ、ストイックな姿勢で王座をつかみ取った過去を持つ。
試合が始まると奇抜な動きでかく乱する青木に対し、今江は序盤から手数を増やして距離を支配。自身のペースで試合を進めていく。青木は得意の「カエルパンチ」を繰り出すも、今江のカウンターを食らってダウンを喫してしまった。
だが、ここから青木の真骨頂ともいえる「死んだふり」作戦が発動する。実はこのダウンは意図的なもので、足にダメージがあるかのように膝を震わせ今江を欺く。
早期決着を目論んだ今江は、猛攻を仕掛けてくるも、青木は4Rまでガードを固めて防御に徹し、今江の攻撃を凌ぎきる。対して一方的に攻め続けた今江は、徐々にスタミナを消耗していった。
そして迎えた6R、青木は満を持して秘策「よそ見」を初披露。これに意表を突かれた今江は「カエルパンチ」を食らい、2度もダウンしてしまった。
あと一撃で試合が決まるという緊迫した状況で、青木は3度目の「よそ見」を繰り出した。もはや本能的に防げないと観念した今江であったが、その視界の先に客席で涙を浮かべながら祈る元恋人・サチ子の姿が映り込む。
何度も突き放したはずの彼女が、ずっと自分を見守り続けてくれていたことを悟った今江は、「よそ見」に釣られず、青木のカエルパンチをかわして渾身のカウンターを叩き込んだ。
これを何とか耐え抜いた青木。試合はここから両者必死の打撃戦となる。そして、最終ラウンドまで死闘を繰り広げた結果、判定はドロー。青木はあと一歩のところまで今江を追い詰めたが、王座奪取とはならなかった。
トミ子とサチ子、2人の“女神”の存在が泥試合になるはずだったこのバトルを、感動のベストバウトへと昇華させたのである。
筆者が青木のキャラクターで最も惹かれるのは、親友・木村達也との深い絆である。
木村がタイトルマッチに臨む際、青木はスパーリングパートナーを務める元ジムメイトであり、年下の宮田一郎のもとへ赴く。そして土下座をし、「悔いを残さない試合をやらせてくれ」「そこまでに仕上げてくれっ」と懇願するのだ。親友のために自分が力になれないことを憂い、プライドを捨ててここまで献身的になれる姿にはグッときてしまう。
また、敗北した木村の意思を代弁し、試合終了後、涙ながらに「まだ戦ってんスよ……」と語るシーンも印象的だった。アニメでは挿入歌『夕空の紙飛行機』が流れ、その演出に涙したファンも少なくないだろう。
ふだんはギャグキャラとして笑いを提供しつつ、ここぞという場面で見せる男気は魅力的だ。『はじめの一歩』において、もっとも人間臭く、そして愛すべき「隠れた主役」の1人といえるだろう。
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