■超一流が支えた「歌と声」の分業制と、現実とリンクするメディアミックス展開
『えり子』で描かれた凄まじい愛憎劇を語るうえで、素晴らしい声優陣の存在抜きには語れません。
まず、アニメの雰囲気を決定づけたのが、滝沢久美子さんによる渾身のナレーションです。「運命の歯車は、容赦なくえり子を巻き込んでいく……」といった、大映ドラマ風の仰々しくも情緒あふれる語り口は、視聴者を一気に作品の世界観へと引き込みます。
そして『超時空要塞マクロス』のミンメイや『魔法の天使クリィミーマミ』のマミは、声優と歌唱者が同一でしたが、『えり子』では、声優と歌唱が「分業制」でした。
本作の主人公・えり子の声を務めた矢島晶子さんは、後に『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけ役などで有名になりますが、この『えり子』がデビュー作。初々しい演技で、薄幸ヒロインの健気さを見事に表現します。
一方で歌唱パートは、実在のアイドル・田村英里子さんが担当。主題歌『涙の半分』、挿入歌『ロコモーションドリーム』など、名曲が毎話のように流れます。この贅沢な役割分担により、劇中で披露される楽曲の大半はアニメソングの枠を超えた本格的アイドルの楽曲として、音楽シーンでも高い評価を得ました。
さらに、実在するアイドルならではの画期的な試みもありました。放送当時、本編終了後の次回予告前に、田村さん本人が登場する「elilin(エリリン)コーナー」が放送。「次回の『アイドル伝説えり子』はどうなるのでしょうか?」と、本物のアイドルが実写で登場してアニメの展開を煽る演出は、視聴者を作品に没入させる秀逸な仕掛けでした。
なお、朝霧麗は『機動戦士ガンダムZZ』でルー・ルカなどを演じた松井菜桜子さん、その歌唱パートは、実際に当時のアイドル・橋本舞子さんが担当。男性アイドル・阿木星吾の声は後に『スレイヤーズ』のガウリイ役を演じる松本保典さん、歌唱パートはシンガーソングライターの有待雅彦さんが担当しています。
このように、本作では実力派シンガーの大沢洋(声:柴本浩行さん、歌唱:片山諭さん)も含めたメインの4人にそれぞれ歌唱担当が用意されていたことからも、歌のパートに相当力を入れていたことが伝わってきます。
結果として、本作は1年にわたる全51話のロングラン放送を記録。アニメとシンクロするアイドルソングが音楽のヒットチャートを賑わせ、アニメの関連商品も好調な売り上げを記録するなど、1990年代に黄金期を迎えた「メディアミックス」作品の先駆けとして成功をおさめました。
物語終盤は、なんと主人公のえり子不在のまま物語が進行するという前代未聞の展開まで飛び出した本作。当時、リアルタイムで見ていた視聴者の1人としては、ドロドロとした人間関係と、過剰にも思えるトンデモ演出の数々に、ただただ圧倒された記憶が残っています。
今のきらびやかなアイドルアニメが描く「仲間との絆」や「友情」とは真逆の、殺伐とした芸能界での生々しい孤独な戦いが『えり子』にはあったのです。
ちなみに本作の成功を受け、翌1990年からは『アイドル天使ようこそようこ』が放送。『えり子』同様、実在する新人アイドル・田中陽子さんとタイアップされます。こちらは『えり子』のようなドロドロの愛憎劇ではなく、1話完結のファンタジックで明るい世界観で描かれました。
『アイドル伝説えり子』を映像でチェック



