■“傍観者”を捨て、教え子たちの盾となった…キース・シャーディス
マーレでテオ・マガトが若き兵を鍛え上げてきたように、パラディ島側でその役割を担っていたのが、訓練兵団教官のキース・シャーディスである。
エレンたち第104期訓練兵団を育て上げた人物ではあるが、正直なところ、物語序盤の彼にはあまり好意的な評価を抱けなかった。というのも、かつて調査兵団団長を務めながらも目立った戦果を挙げられず、自らを“傍観者”とし、悔恨を抱えたまま後進の育成に身を置いていたからだ。
さらに、愛した女性の息子であるエレンを戦地に送り出さないためとはいえ、姿勢制御試験用のベルトの金具を故意に破損させるなど、その行動は手放しで肯定できるものではない。
しかし、4年後の「マーレ編」で彼の姿は一変する。イェーガー派のクーデターに際し、教え子たちが粛清されるのを防ぐため、あえて無抵抗で暴行を受け入れ、自ら泥を被る道を選ぶ。さらに地鳴らし発動後には、自らに暴力を振るった訓練兵たちをも巨人から救い出すなど、教官としての矜持を示した。
さらに、地鳴らしを止めようとするアルミンたちの姿に心を動かされ、キースもまた死地へと赴く。港では増援列車を爆破し、同じく「しんがり」を務めようとしていたマガトと合流を果たすこととなる。
このとき注目すべきは、彼の装いである。身にまとっていたのは教官服ではなく、「自由の翼」を背負った調査兵団の団服だったのだ。それは、かつて果たせなかった己の責務と真正面から向き合い、最後は1人の兵士として戦い抜こうとする覚悟の表れだったのではないだろうか。そう考えると、思わず胸が熱くなってしまう。
港に停泊する巡洋艦を爆破するため、マガトとキースは船内へと乗り込む。限られたわずかな時間の中で爆薬を仕掛けながら、それぞれの教え子について語り合う2人の姿は印象的だった。背負ってきた歴史も立場も異なりながらも、若者の未来を願う想いが重なり合う。そして最後に互いに名を名乗り合い、2人の老兵は爆炎の中へと消えるのだった。
教官として長く“傍観者”の立場に身を置いていたキース・シャーディス。しかしその最期は、1人の兵士として、自らの人生に決着をつけるにふさわしいものだった。
彼ら老兵たちが最期に見せた圧倒的な胆力と、次世代へ未来を託す覚悟。それこそが、自由を求めて戦い続けたこの物語のテーマを、大人としての側面から体現した「もう一つの英雄の形」であったと言えるのではないだろうか。
彼らのような「格好いい大人」がいたからこそ、若き兵たちはより強く輝き、『進撃の巨人』という物語は、これほどまでに我々読者の心を揺さぶるのである。
■Kindleで『進撃の巨人』をチェック



