ドット・ピクシスにテオ・マガト、キース・シャーディスも…『進撃の巨人』散り際までカッコ良かった「いぶし銀の老兵たち」の画像
劇場版『進撃の巨人」後編~自由の翼~』DVD (C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

 2009年から2021年まで『別冊少年マガジン』(講談社)にて連載された、諫山創氏が描いた『進撃の巨人』。

 この壮大な物語で印象に残るのは、主人公のエレン・イェーガーやミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトといった若き兵士たちだけではない。要所要所で強い存在感を放っていたのが、過去の失敗や犠牲を背負いながらも、次の世代に何を残すかを問い続けた「老兵」たちもまた、読者の胸を打つ存在だ。

 今回は、そんな“いぶし銀”の魅力を持つキャラクターに焦点を当て、彼らの胆力と散り際の美学を振り返っていきたい。

 

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

 

■冷徹な現実主義で人類を導いた名将…ドット・ピクシス

 まずは、スキンヘッドに口髭という風貌が印象的な駐屯兵団司令官、ドット・ピクシスである。飄々とした佇まいの裏に、徹底して現実を見据える冷静さを備えた人物だ。

 その真価が最初に発揮されたのは、物語序盤のトロスト区攻防戦である。巨人化したエレンを前に恐怖に飲まれた兵士たちが、アルミンやミカサごと砲撃しようとする混乱の中、冷静に事態を収拾したのがピクシスだった。彼があの場に現れなければ、エレンたちの物語はそこで終わっていた可能性が高い。

 続く局面では、“巨人化したエレンの力で破壊された扉の大穴を塞ぐ”というアルミンの奇策を即座に採用。老練という言葉だけでは収まりきらない柔軟な思考と決断力で、絶望的な状況を一気に打開した。ピクシスのこの英断こそが、壁内の人類にとって“初めての勝利”を引き寄せたのである。

 彼はその後も「王政編」から「マーレ編」に至るまで、激動の時代を生き抜きながら駐屯兵団の長として現場を支え続けた。状況を的確に見極め、時に非情な判断すら辞さないその姿は、まさに戦時下における理想の指揮官像といえるだろう。

 無類の酒好きとしても知られ、常にスキットルを携えていた彼だが、皮肉にもそれが彼の最期を決定づけることになる。物語終盤、ジーク・イェーガーの脊髄液入りワインを口にしてしまうのだ。それでもなお兵士たちに指示を飛ばし、最後まで指揮官として振る舞い続け、やがて巨人化。最期は、かつて自身がその才能を見出したアルミンの雷槍によって討たれることとなる。

 「ここまで僕達を導いてくれたのは あなたです ゆっくりと… お休みください」アルミンが最後に贈ったこの言葉には、若き兵士たちにとってピクシスがどれほど大きな存在であり続けたかが凝縮されているようだ。

■マーレの罪を背負い、未来を託した…テオ・マガト

 2人目は、マーレ軍の元帥であるテオ・マガトだ。彼は長年にわたり、マーレ軍内部でエルディア人戦士隊の隊長を務め、常に最前線で彼らを率いてきた人物である。

 マーレ人の多くがエルディア人を「悪魔の末裔」と蔑む中、マガトの言動は厳しいながらも偏見に染まることはなく、彼らを1人の人間として扱っていたように見える。その象徴的なシーンが、独断で敵地に乗り込み、パラディ島勢力に拘束されたガビ・ブラウンとの再会シーンだ。

 ピーク・フィンガーによって救出されたガビに対し、マガトは「ブラウン貴様!! 誰が敵地に乗り込めと命じた!!」と激しく叱責する。だが、その直前に見せた強い抱擁には、教え子を想う父親のような愛情が確かに感じられた。

 物語終盤、マガトはエレンの「地鳴らし」を止めるため、かつての敵であるパラディ島の面々と行動をともにする。しかし、焚き火を囲んだ夜、積もった憎しみが抑えられず、彼らと激しく対立。だが、2000年に及ぶ歴史とそれぞれの立場を考えれば、その衝突は和解のためには避けて通れぬ通過儀礼であったといえるだろう。

 しかし、彼の真価はその後にこそ表れる。飛行艇奪取のため港へ向かう直前、マガトは自らの非礼を詫びるとともに、イェーガー派とはいえアルミンたちにとっての同胞へ刃を向けさせることに対し、「我々の愚かな行いに… 今だけ目を瞑ってくれ」と深々と頭を下げた。

 これに対し、アルミンもまた「手も汚さず 正しくあろうとするなんて…」と自らの在り方を省み、作戦への参加を決意する。マガトの誠実な謝罪は、敵対していた者たちの心を強く結びつけるきっかけとなったのである。

 そして飛行艇の奪取に成功したのち、彼が選んだのは、追撃を断つため港に残る「しんがり」という死地であった。未来を若者たちに託すその覚悟こそが、テオ・マガトという男の生き様を物語っていた。

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