1980年代後半から1990年代前半にかけての「りぼん黄金期」には、数々の名作が少女たちを夢中にさせた。その中でも、“芸能界”という華やかでシビアな世界を舞台にした恋愛漫画があった。それが、吉住渉氏による『ハンサムな彼女』である。
本作の最終回といえば、ヒロイン・萩原未央が女優として成功し、恋愛も成就させたハッピーエンドだった、という漠然とした記憶を持つ人も少なくないだろう。しかし、実際はとてもドラマチックで、2人の未来を想像させる気になる展開で終わっているのである。
今回は、主役の未央と熊谷一哉が迎えた最終回と、大人になってから読み返すことで見えてくる10代のリアルな葛藤について、じっくりと振り返ってみたい。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■恋か夢か、それともヒロインの座か…芸能界を舞台に描かれた10代のリアルな葛藤
まずは『ハンサムな彼女』の内容を振り返ってみよう。本作は『りぼん』(集英社)にて1988年から1991年まで連載された大ヒット作である。
主人公・萩原未央は、14歳にして活躍する若手女優だ。彼女はあるドラマの撮影現場で、生意気だが才能あふれる映画監督志望の熊谷一哉と出会う。
物語はこの2人の関係を軸に展開していき、未央の親友でトップアイドルの沢木彩や、幼なじみの俳優・森本輝臣といった人物を交えながら、芸能界という特殊な環境で恋と夢の狭間で揺れ動く若者たちの姿を描いていく。
実際に読み返してみると、この作品の凄さは単なるラブコメディに留まらない点にあることが分かる。一哉がハリウッドの有名監督からスカウトされて渡米のチャンスを得たり、一哉の新作映画のヒロインの座を新人女優・竹内みちるに奪われて未央が涙を呑んだりと、10代の若者が背負うにはあまりにも過酷な“仕事の葛藤”がリアルに描かれているのだ。
女優が主役の恋愛漫画と聞くと、自分とはかけ離れた華やかな世界を想像するかもしれない。しかし「恋を取るか、夢を取るか」「主役の座を譲れるか」といったシビアな選択を迫られ、もがき苦しみながらも前を向く登場人物たちの姿は身近な存在に映る。
きらびやかな芸能界を舞台にしながらも、厳しくも情熱的な仕事&青春群像劇として、今読んでも色褪せない普遍的な魅力を持つ作品なのだ。
■互いに嫉妬する2人…誕生日に贈られた「そのうち本物を買ってやる」の名セリフ
未央と一哉の恋は、決して平坦なものではなかった。ヒロインの座を巡るすれ違いや、互いの元恋人や新たなライバルの出現、そして一哉が夢を追ってアメリカへ渡るために一度は別れを決意するなど、読者を何度もヤキモキさせた。しかし、どのような障害があっても2人の絆は強く、互いに嫉妬し合う場面も多く描かれている。
ラストの展開で未央は、自分の歌唱指導者である佐野亮平からプロポーズされる。それに感謝しつつも断る未央だったが、そこに現れた一哉は嫉妬もあって亮平を思い切り殴ってしまう。
一方、その後一哉の主演映画を見た未央も、彼のラブシーンを見て激しく嫉妬し、機嫌を悪くするのだ。お互いが相手のことで激しい嫉妬をし合う展開は、ある意味、理想的な両想いの形といえるだろう。
そんな2人が迎えた物語のラストシーン。未央の誕生日に、一哉はプレゼントとして指輪を贈る。大喜びで薬指にはめる未央だが、なんとその指輪はサイズが合わずブカブカであった。
がっかりして、“この指輪は中指にしかハマらない”と言う未央に対し、一哉は“薬指は空けておけ、そのうち本物を買ってやるから”と、さりげなく告げるのである。
このセリフ、大人になった今読むと、「高校生なのに、何て完璧なセリフを言うんだ!」とツッコミを入れたくなるが、連載当時はこの一言に多くの少女たちが心を撃ち抜かれただろう。
サイズが合わないブカブカの指輪という失敗を逆手に取り、未来の「本物の指輪(婚約指輪)」を約束するというスマートなリカバリー。
物語は街路樹の美しい街中を2人が腕を組んで歩くシーンで幕を閉じ、読者に多幸感を与える余韻で終わっている。


