■手術をするフリをして幸せに導いたエピソード「気が弱いシラノ」
最後に紹介するのは、心温まる結末が印象的なエピソード「気が弱いシラノ」だ。
自分の容姿に劣等感を抱く青年・白野は、同じ団地エリアに住む病弱な女性・ジュンに想いを寄せていた。しかし、彼女の生きる希望は、窓から見える通りから笑顔を見せる美男子・栗須の存在であり、白野が入り込む隙はなかった。
しかしある日、その栗須が事故で死んでしまう。彼が亡くなったことを知れば、ジュンも生きる希望を失ってしまうだろう——そう考えた白野は、自分の顔を栗須に整形し、彼になりすまして彼女を支え続けようと決意する。その相談を受けたB・Jは、その純粋な想いを受け、わずか千円で整形手術を引き受けるのであった。
後日、顔中に包帯を巻いた白野を見てジュンは心配する。“大丈夫そのうち栗須が来るよ”と白野が伝えると、“もう栗須はどうでも良い、いつもそばにいてくれたあなたが好きよ”と、ジュンから告白されてしまう。
思いも寄らないその言葉に、もう遅いと絶望しながら包帯を取った白野が見たのは、なんと手術前と変わらない自身の顔だった。
ラストシーンではB・Jが登場し、「こうなると思っていたからね」「千円じゃ安いだろう」と白野に告げる。そこで初めて、実は手術をしていなかったという真相が明かされるのである。
“人は見た目が大切”という風潮もある現代において、改めて“人の価値は内面にある”と気づかされるこのエピソード。B・Jがあえて行わなかった手術は、人間の本質がどうあるべきかを問いかけているように思う。
『ブラック・ジャック』の魅力は、B・Jが披露する現代医療の常識をも覆すような神業的な手術の数々にある。それに加えて、今回紹介したような一般人では思いつかないB・Jならではの発想で、多くの人を救っていく姿もまた非常に印象的だ。
我々が日頃の生活でB・Jのような天才的アイデアを出すのは難しいだろう。しかし、常識にとらわれない彼の考え方に触れることは、いざという時の助けにつながるかもしれない。


