■時計館の作りこみが圧巻…『時計館の殺人』

 「館シリーズ」の最高傑作に挙げられることもある『時計館の殺人』。本作はシリーズ第5作であり、『十角館の殺人』で登場した大学生・江南孝明が惨劇に巻き込まれる必見のエピソードである。

 本作で、江南は超常現象を取り扱うオカルト雑誌『CHAOS』の新米編集者として、十角館の設計者でもある中村青司が設計した「時計館」へと取材のために赴く。そこでは、副編集長やカメラマン、霊能力者、ある大学の超常現象研究会のメンバーなどが参加し、怪しげな「交霊会」が行われることになっていた。やがて凄惨な殺人事件が起こり、本格ミステリが展開されていく。

 実写化に際しては、江南役には奥智哉さん、ミステリ作家・鹿谷門実としての活動を始めた島田潔役には青木崇高さんが続投。物語の舞台となる時計館は原作のイメージそのままで、特に108個の時計に埋め尽くされた旧館はまさに圧巻だ。秒針や振子の音が鳴り響き、聴覚でも不気味さを楽しめるのは、実写作品ならではといえるだろう。

 物語の核となる「交霊会」の場面は、蝋燭のわずかな明かりも手伝って、どんどん不気味さが増していく。炎が揺れる音や衣擦れの音も聞こえるほどの静けさの中で始められた“霊との交信”は、緊張感が凄まじく、思わず固唾を飲んで見守ってしまうほどである。

 本作は綾辻さんが脚本の最終調整にもかかわっており、インタビューでは「想像していた以上の“本気”の作り込みに圧倒されました」ともコメント。原作者のお墨付きとあって、ファンも納得の濃密なミステリを楽しめるはずだ。

 

 綾辻作品といえば、巧みな叙述トリックやどんでん返しが魅力であり、その名作の多くは実写化が難しいと言われてきた。しかし、今回紹介したように、制作陣のアイデアや撮影技術の向上によって作品の世界観を見事再現した例もある。ぜひそれぞれの作品を、原作やコミカライズ版も合わせて楽しんでみてほしい。

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