■次回作にも登場しバンドマンとして成功『天使なんかじゃない』中川ケン

 『りぼん』で連載された矢沢あい氏の『天使なんかじゃない』は、不朽の青春ラブストーリーである。ヒロインの冴島翠と、リーゼントヘアがトレードマークの須藤晃を中心とした切ない恋愛模様を描き、今なお多くのファンに愛される名作だ。

 この作品において、翠を巡る当て馬キャラとして登場するのが、翠の中学時代からの友人である中川ケンだ。バンド活動に打ち込む彼は、明るくノリの良い青年であり、実は中学時代からずっと翠に片想いしていた。

 作中には、翠が晃の言動に傷つき、ケンのもとへ向かう印象的なシーンがある。そのときケンは何も聞かずに翠を温かく迎え入れ、朝まで優しく手を握り続ける。それにより翠は安心し、久しぶりにぐっすりと眠ることができたのである。大人になって読み返すと、こうしたケンの献身的な姿と愛情の深さにグッときてしまう。

 その後、晃とのすれ違いで傷ついた翠は、一世一代の告白をしてくれたケンの気持ちを一度は受け入れる。しかし結局、翠は晃を忘れられず、ケンは振られてしまうのだ。

 完全に当て馬となってしまったケンだが、彼の真価が発揮されるのはここからである。自分を振り回した翠に対して疎遠になるどころか、これまでと一切態度を変えず、変わらぬ友情で彼女を支え続けるのである。その懐の深さは、作中随一といえるだろう。

 そのようなケンには、輝かしいサクセスストーリーが待っていた。翠を想って作った曲「天使のほほ笑み」がヒットし、ミュージシャンとしてメジャーデビューを果たすのである。しかも矢沢氏の次回作『ご近所物語』では、ケンは人気バンド「マンボー」のボーカリストとして大成功をおさめた姿で再登場しており、ファンを喜ばせた。

 ケンはどんな時も一途で誠実に愛情を注ぎ、さらには自分の夢をかなえてスターになった。当て馬という立場から自らの実力で輝かしい未来をつかみ取った、最高にカッコいいキャラクターである。

 

 ヒロインと結ばれない運命を背負った「当て馬男子」たち。しかし、今回紹介した彼らは、いずれも失恋をバネに自らの手で幸せをつかんだことにホッとした。

 思えば私たちの人生も主役的な立場になったり、当て馬的な役割になったりの繰り返しだ。恋に破れても前を向き、別の場所で輝きを放つ彼らの生きざまは、大人になった私たちの背中を強く後押ししてくれるものだろう。

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