■唯一の味方だったのに…コンプレックスが生んだ復讐の鬼『花より男子』三条桜子
神尾葉子氏による『花より男子』は、1992年から2003年にかけて集英社の『マーガレット』で連載された大ヒット学園ラブコメディである。
物語の舞台は、超富裕層の子弟が通う名門・英徳学園。一般庶民の主人公・牧野つくしが学園を支配する御曹司4人組「F4」から陰湿な集団いじめに遭いながらも、やがてそのリーダーの道明寺司と惹かれ合っていくシンデレラストーリーだ。
この過酷な学園生活の中でつくしを慕い、唯一の味方として現れた後輩が三条桜子である。容姿端麗でありながら男性恐怖症で内気な彼女は、つくしにとって心を許せる数少ない存在だった。
しかしその内気な性格は、つくしを油断させるための演技だった。その本性は、夜な夜なディスコで踊ることが好きな奔放な少女であり、彼女の美しい顔も実は整形によって手に入れたものだったのである。
桜子は幼い頃に道明寺から「ドブス」と容姿をからかわれたことで深いトラウマを抱え、復讐のためだけに生きてきた。その標的となったのが、道明寺の心を動かしたつくしだったのだ。
桜子はつくしに睡眠薬を飲ませ、男性とベッドにいる写真を撮影し学校中にばらまくという陰湿な罠を仕掛ける。唯一の味方だと思っていた後輩に裏切られたつくしの絶望と、桜子の歪んだ執念の恐ろしさは当時の読者に衝撃を与えた。
しかし、後に自分の秘密がバレていじめの標的になった際、つくしに庇われたことで桜子は泣きながら謝罪し、改心する。その後はつくしの幼馴染である青池和也とともに、彼女の良き理解者の1人としてサポートする場面も増えていった。
桜子の悪行の根底には、強烈なコンプレックスと、それによって深く傷つけられた過去がある。その背景がリアルに描かれているからこそ、彼女を単なる悪女では片付けられない。おこなったことは決して許されるものではないが、その弱さや人間らしさから、どこか憎みきれない魅力を持ったキャラクターだ。
王道少女漫画を彩った彼女たちの変貌ぶりは、当時の私たち読者に“人間の裏の顔”の恐ろしさを存分に教えてくれた。
優しかった人物が嫉妬やコンプレックスから復讐の鬼へと変貌していく姿は、物語を最高に盛り上げるスパイスとなる。そして、彼女たちのような悪役が存在することで、困難を乗り越えるヒロインやヒーローとの愛の深さが一層際立つのだ。
今、改めてこれらの作品を読み返してみると、かつては恐ろしいと感じた彼女たちが抱えていた弱さや人間らしい魅力が見えてくるかもしれない。次にこれらの名作を読む時は、物語を彩る「最恐の悪女」の生きざまにも、ぜひ注目してみてほしい。


