最初は優しかったのに…王道少女漫画の「激変ぶりが怖すぎた悪女たち」『ガラスの仮面』鷹宮紫織に『ベルサイユのばら』ポリニャック伯夫人もの画像
花とゆめCOMICS『ガラスの仮面』第47巻(白泉社)

 少女漫画のヒロインたちは、時に過酷な運命に翻弄される存在である。そんな彼女たちの前に立ちはだかり、物語に緊張感をもたらすのが、強烈な個性を持つ「悪女」たち。

 しかし、これらの悪女たちが最初から悪役として登場するとは限らない。むしろ登場当初は誰よりも優しく、ヒロインの理解者として描かれていたケースもあった。

 だが、ストーリーが進むにつれ豹変し、読者を震え上がらせた彼女たち。今回は、王道少女漫画に登場する“最初は善人だったが、後に最恐の悪女へと豹変したキャラクター”を振り返ってみたい。なぜ、彼女たちはここまで変貌してしまったのだろうか……。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■優しく美しい令嬢から一転…最恐婚約者『ガラスの仮面』鷹宮紫織

 美内すずえ氏による『ガラスの仮面』は、1976年から白泉社の『花とゆめ』で連載が開始された少女漫画の金字塔だ。

 物語は、平凡な少女・北島マヤが、往年の大女優・月影千草にその才能を見出され、幻の演劇「紅天女」の主演を目指し、役者として奮闘していく物語である。

 この物語の中で、マヤは“紫のバラのひと”として陰ながら支えてくれる大都芸能の若社長・速水真澄と惹かれ合っていく。しかし、ここで強烈な壁として立ちはだかるのが、真澄の婚約者であり、政略結婚の相手である鷹宮紫織だ。

 大企業の令嬢である紫織は、初登場時、大都芸能のオフィスから無理やり追い出されそうになったマヤを「女の子あいてに乱暴はおやめなさい!」と庇う、優しい大人の女性として描かれた。少し病弱で、控えめな性格の美しい婚約者——それが当時の紫織の印象だ。

 しかし、真澄がマヤを深く愛していることを知った瞬間、彼女の仮面は剥がれ落ちる。マヤへの激しい嫉妬心から指輪泥棒の濡れ衣を着せたり、写真をハサミで切り刻んだりと、陰湿な嫌がらせを繰り返すようになるのである。その後、真澄から婚約破棄を告げられると精神的に追い詰められ、その行動は常軌を逸していく。

 紫織の豹変ぶりを追っていくと、もはや少女漫画の恋愛模様という枠を飛び越え、さながら「サスペンス劇場」のようだ。そのあまりに深すぎる執念は、マヤと真澄の恋路を阻む巨大な障壁となるのである。

 徐々に読者から恐れられる存在となった紫織だが、彼女がいるからこそ『ガラスの仮面』の物語がさらにドラマチックになっているのも事実だろう。

■貧しくも優しい貴婦人だったはずが…暗殺計画まで企てた『ベルサイユのばら』ポリニャック伯夫人

 池田理代子氏による『ベルサイユのばら』は、1972年から集英社の『週刊マーガレット』(現:『マーガレット』)で連載された。男装の麗人、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェを主人公に、フランス革命という激動の時代を生きる人々の愛と運命を描いた歴史ロマンの名作である。

 本作には複数の悪人キャラクターが登場するが、中でも強いインパクトを残したのがポリニャック伯夫人だ。

 彼女は登場当初、“宮廷に出てこれないのは十分なお金がないから”と、素直に王妃マリー・アントワネットに打ち明けており、その純粋で気取らない人柄を気に入られる。これをきっかけに彼女はアントワネットの同情心を巧みに利用し、その寵愛を独占していくのである。

 権力を手にしてからのポリニャック伯夫人の変貌ぶりは凄まじかった。作中、下町で暮らす少女・ロザリーの育ての母を馬車で轢き殺しておきながら、「もんくがあったらいつでもベルサイユへいらっしゃい!」と、冷酷に言い放つ姿に衝撃を受けた読者は少なくないだろう。

 さらに、王妃を賭博に誘い込んで国庫を圧迫し、それを追及されると泣き落としの演技でうやむやにしてしまう。その後も邪魔者であるオスカルの暗殺を企てたり、挙げ句の果てにはわずか11歳の娘・シャルロットを歳の離れた公爵へ嫁がせ、自死に追い込むという非道な“毒親”ぶりまで発揮するのだ。

 改めて読み返してみると、その底なしの欲望と自己保身への執着には怒りを覚える。

 その後もポリニャック伯夫人は、フランス革命が勃発してアントワネットの身が危うくなると恩義も忘れ、しれっと他国へ逃亡する計算高さも見せていた。このようにどこまでも利己的なポリニャック伯夫人だが、その剥き出しの人間臭さこそが彼女を忘れられない悪女たらしめているのかもしれない。

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