個性豊かなキャラクターたちが登場する『ガンダム』シリーズ。その魅力が光るのは必ずしも主人公陣営のキャラクターだけではなく、敵対する陣営のキャラクターにも多くのファンがついている。
その中には、極悪非道な許されざる所業をおこなったキャラクターを支持する声もある。そんな悪人たちが視聴者を魅了した理由は何なのか……。
本記事では『ガンダム』シリーズに登場する数名の悪人キャラを厳選し、彼らが一部のファンから支持されている理由について探ってみたい。
※本記事には各作品の核心的な内容を含みます。
■非情な言動を貫く芯の強さと、圧倒的な強さを誇る歴戦の軍人
『機動戦士Zガンダム』や『機動戦士ガンダムZZ』に登場したヤザン・ゲーブルは、いまだ多くのファンから根強い支持を得ているキャラクターだ。
オールドタイプながら卓越したモビルスーツ(MS)の操縦技術を持つヤザンは、数々の戦場をかき乱してきた。その荒々しい性格から“野獣”と評され、戦闘を楽しむかのように不敵な笑みを浮かべながら『Zガンダム』ではカツ・コバヤシやエマ・シーンらをいたぶった。
さらに、ヘンケン・ベッケナーが艦長を務める戦艦・ラーディッシュを撃沈した際には高らかな笑い声をあげるなど、戦争中とはいえ非道な言動が数多く見られる。
エゥーゴ陣営の視点から見れば、とても善人とは言いがたい態度や冷徹さを見せた軍人のヤザンだが、彼を支持するファンは意外と多い。
また『ガンダム』のMSパイロットの世界においてオールドタイプは、相対的にニュータイプの下位に位置づけられがち。そのオールドタイプのヤザンが作中屈指のニュータイプを圧倒する様に、一種のジャイアントキリング的なカタルシスを感じる人もいたのかもしれない。
ヤザンは人間性にも見るべき部分があり、直接敵対する人間以外の虐殺は好まないことから、殺生に関しては一定のポリシーを持っていることがうかがえる。
自身の部下に対しても、出撃前にユーモアを交えながら鼓舞する描写や、散りゆく部下の名前を叫ぶシーンなどもあり、情に厚く頼もしい兄貴分的な一面が感じられた。野獣と呼ばれる荒々しいヤザンが時折見せる人間的な部分は、魅力的なギャップでもある。
不敵な笑みを浮かべ、エゥーゴの主要キャラクターを次々と退場させたヤザン。一本筋の通った歴戦の猛者としての揺るがぬプライドと、ニュータイプをも圧倒する高い戦闘力で、今後も多くのファンを魅了し続けるだろう。
■「失敗作」として生まれた男の哀しき叫び
『機動戦士ガンダムSEED』に登場したラウ・ル・クルーゼも正真正銘の悪人だったが、印象深い多くの言葉を残し、多くのファンから人気を集めている。
優秀なナチュラルであるアル・ダ・フラガのクローンとして人工的に産み出されたクルーゼ。パイロットとして肉体面・精神面ともに優秀な存在であったことは間違いないが、余命が短く、早期に老いてしまうというハンデを抱えていた。そのため生みの親であるアルに「失敗作」として早々に見限られてしまうという悲しい過去がある。
「他者より強く! 他者より先へ! 他者より上へ! 競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う!」「私は結果だよ。だから知る! 自ら育てた闇に喰われて、人は滅ぶとな!」
クルーゼが放ったこれらの言葉からも分かるように、彼が憎んだのはいつの時代も競争心を抱き、互いのエゴによって憎しみの連鎖を紡いでいく人類そのものだった。
その憎しみを糧にザフト軍で確固たる地位まで上り詰めたクルーゼは、機密情報を地球連合軍に漏えいさせて核戦争を誘発させるなど、戦争を混沌へと導いてゆく。
「守る」意思の強い主人公のキラ・ヤマトにとって、すべての「破壊」を画策するクルーゼは紛れもない脅威であった。しかし、クルーゼの不遇な出生の真実や、人類に対する哀れみの言葉の数々は、現代を生きる視聴者にも無視できないものが多く、完全には憎み切れない存在でもあった。
「地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる!」というクルーゼの絶叫は、人類の飽くなき闘争の歴史を憂い、目を背けるべきではない戒めとして、多くの視聴者の心に刻み込まれたことだろう。
壮絶な人生を送ってきたクルーゼだからこそ、彼の放つ言葉には説得力があり、心に響く。そうした一つ一つの言葉から垣間見える悲哀そのものが、ラウ・ル・クルーゼというキャラクターの最大の魅力なのかもしれない。


