■弟の「矜持」を踏みにじった末路…『幽☆遊☆白書』戸愚呂兄

 最後は、これまでの「上司と部下」という関係性とは少し異なるが、「口は災いの元」を最も露骨な形で体現した例を取りあげたい。『幽☆遊☆白書』(冨樫義博氏)において屈指のゲスキャラクターとして名高い戸愚呂兄だ。

 暗黒武術会決勝、桑原和真に思わぬ敗戦を喫し、死んだと思われていた戸愚呂兄。いよいよ戸愚呂弟と主人公・浦飯幽助との最終決戦が幕を開けようとしたその瞬間、彼は地中から高笑いとともに姿を現す。

 「ウラメシてめェは弟にゃ勝てねェ」「あの幻海でさえ負けたんだ!!」と叫び、その後も幽助の師匠・玄海を執拗に貶める言葉を吐き続ける。そして「うす汚なくおいぼれてくたばっちまえばおしまいよォ」と、あまりに品性を欠いたこの嘲笑が、彼の運命を決定づけることになった。

 やれやれといった様子で溜息をつき兄に近づく弟。それでもなおしゃべり続ける兄に対し、弟が放ったのは「どけ ジャマだ兄者」という冷ややかな一言だった。真っ黒なシルエットの中でサングラスだけが不気味に光るその姿は、底知れぬ怒りが感じられて非常に恐ろしい。

 玄海を自らの手で葬った弟であったが、彼にとって彼女はかつての戦友であり、敬意を払うべき存在であった。兄の暴言は、その弟の矜持を土足で踏みにじるものであったのである。結果、兄は実の弟に軽く蹴り上げられ、落ちてきたところに強烈な一撃が見舞われる。そのまま会場の彼方へと吹き飛ばされ、文字通り粉微塵になってしまうのであった。

 ちなみに、これほどの末路をたどりながらも、兄はのちの「魔界の扉編」で復活を遂げる。その驚異的な生命力だけは評価に値するのかもしれない。

 

 粛清や制裁を受けた彼らに共通するのは、何気ない一言がボスの価値観と決定的に食い違ってしまった点だろう。絶対的な支配者の前では、正論や親愛、あるいは必死の覚悟すらも、時として命取りになる。彼らの悲劇的な退場は、ボスの不条理さと底知れぬ強大さを読者に鮮烈に印象付けることとなった。

 もちろん、ここまでの粛清はフィクションの世界ならではのものである。だが、社会を生きる我々も、ボスの前でだけは「うっかり」を漏らさぬよう肝に銘じたいものだ。

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