漫画やアニメの世界には、絶対的な力を持つボスキャラクターが登場する。彼らの機嫌を損ねることは決して許されず、時に部下にとって不運な出来事につながることもある。
反逆や無様な失態がボスの逆鱗に触れるきっかけとなるのは当然だが、時には何気ないほんの一言が取り返しのつかない事態を招くこともあるのだ。
今回は、読者が思わず「そこまでしなくても……」と同情したくなるような、「うっかり失言」によって粛清されてしまった悲しき敵キャラクターたちを振り返りたい。
※本記事には各作品の内容を含みます。
■理不尽すぎる「パワハラ会議」『鬼滅の刃』下弦の鬼たち
理不尽な粛清といえば、やはり『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴氏)における鬼舞辻無惨による「下弦の鬼」たちの解体シーン、通称「パワハラ会議」だろう。下弦の伍・累が鬼殺隊に倒されたあと、残りの下弦の鬼たちは無限城へと呼び集められる。
最初に犠牲となったのは、下弦の陸・釜鵺(かまぬえ)だ。「上弦の鬼たちとは違って、下弦は何度入れ替わったと思っている?」と、ご機嫌最悪の無惨に対し、釜鵺は心の中で「そんなことを俺たちに言われても……」と本音をこぼしてしまう。しかし、その思考は無惨に筒抜けであり、彼はこのパワハラ会議の犠牲者1号となってしまった。
次に、下弦の肆・零余子(むかご)は「柱に遭遇すれば逃亡しようと思っているな」との指摘を必死に否定したが「お前は私が言うことを否定するのか」と切り捨てられ、一瞬にして殺された。その様子を見た下弦の参・病葉(わくらば)は逃亡を試みるも一瞬で首をはねられてしまう。まさに、逃走も弁明もすべてが死に直結する「詰み」の状態だった。
そんな絶望的な状況下で声を絞り出したのが、下弦の弐・轆轤(ろくろ)だ。彼は「貴方様の血を分けて戴ければ 私は必ず“血に順応”してみせます より強力な鬼となり戦います」と、忠誠と必死の決意表明を試みる。
だが、これすらも「なぜ私がお前の指図で血を与えねばならんのだ」「お前は私に指図した 死に値する」の理屈で一蹴され、葬り去られることとなった。
こうして唯一無惨の嗜虐的な感性に合った下弦の壱・魘夢(えんむ)ひとりを残し、下弦の鬼は文字通り「解体」されることになった。彼らは敵役の鬼なのだが、少し気の毒に思えてしまうほどあまりに救いのない会議であった。
■「未来」を語って消された男…『BLEACH』リューダース・フリーゲン
『BLEACH』(久保帯人氏)の最終章「千年血戦篇」において、全ての滅却師(クインシー)の始祖にして「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」の皇帝、そして本作の最後にして最大の敵として君臨したのがユーハバッハだ。その絶対的な王の機嫌を、忠誠心ゆえの一言で損ねてしまった悲劇の人物がリューダース・フリーゲンである。
護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國のもとへ赴き、尸魂界(ソウル・ソサエティ)への宣戦布告という大役を果たして帰還したリューダース。しかし報告の直前、彼は同じく帰還したアズギアロ・イーバーンと些細な言い争いをしてしまう。それを見たユーハバッハは「私は 争いを好まんぞ」と告げ、即座に彼の右腕を切り落とした。
激痛に耐えながらも、気力で報告を続けるリューダース。尸魂界への侵攻開始日について、ユーハバッハから「5日か?」と問われると、彼は「はい……! これは我が方と尸魂界の双方に取って戦いの準備をするに過不及無き…」と、極めて丁寧かつ論理的に回答した。
軍師的な有能さを見せ、忠誠を示そうとした、普通なら非の打ち所がないはずの返答。だが、返ってきたのは「未来だな」「お前は預言者か?」という冷徹な言葉だった。そして「私は “今”の話を聞きたい」と言い捨てると、彼はリューダースの頭を吹き飛ばしてしまう。
初読時には多くの読者がその理不尽さに戦慄したものだが、物語が進むにつれ、このシーンがユーハバッハの持つ聖文字(シュリフト)“A”、すなわち「全知全能(ジ・オールマイティ)」の伏線であったことが分かる。これから起こる未来のすべてを見通し、改変すら可能な彼にとって、部下が語る「未来」などまさしく不要だったのである。


