原作:山田鐘人氏、作画:アベツカサ氏による『葬送のフリーレン』(小学館)は「後日譚ファンタジー」という独自のジャンルで親しまれている。物語は、主人公のエルフ、フリーレンがかつて勇者パーティーの一員として魔王を倒して世界を救った「本編」から、数十年後が経過した世界を舞台に描かれているからだ。
では、その「本編」における主人公が誰かといえば、勇者ヒンメルだろう。自分の美しさに心酔するナルシストな一面が玉に瑕だが、戦闘力はずば抜けており、フリーレンの回想シーンでは、彼の並外れた実力がたびたび描かれている。
今回は、世界を救った偉大な勇者ヒンメルの強さを追いかけてみよう。魔王を倒した勇者パーティーの中核は、どれほど強かったのだろうか。
※本記事には『葬送のフリーレン』のアニメ化されていない部分の内容も含みます。
■「断頭台のアウラ」すら驚かせる圧倒的なスピード
ヒンメルの全盛期の活躍は、主にフリーレンの回想で語られる。その戦闘描写を振り返ってみると、勇者ヒンメルの最大の強みは、目にも止まらぬ速度で敵を切り裂く驚異的なスピードにあることがわかる。
たとえば第14話で子どもを人質に取る魔族との対峙シーン。魔族が子どもを左手で持ち上げ、この子は人質に…」と言いかけた次の瞬間、「ガッ」という音だけを残して魔族の左手と子どもが消失した。
倒れる魔族の背後にはすでに子どもを抱きかかえるヒンメルの姿があり、読者は遅れて「ヒンメルが目にも止まらぬスピードで魔族の左手を切断し、子どもを助けた」という事実に気づかされるのだ。
他にも、魔王軍の大幹部「七崩賢」の一角である「断頭台のアウラ」との戦いにおいても、彼女に斬撃をくらわせるヒンメルのワンカットが描かれている。相手を強制的に支配下に置くアウラの「服従させる魔法(アゼリューゼ)」の発動を許さぬまま斬撃を浴びせた描写は、彼の人間離れした身体能力を物語っている。
またスピードだけではなく、攻撃力も凄まじい。森の中で剣を振れば、その斬撃の余波で周囲の木を何本も切断する。耐久力はさすがに仲間の戦士アイゼンに一歩譲るだろうが、総合的な戦闘能力においては、人類最強クラスの剣士といって差し支えないだろう。
■幻影の中にいながら戦える! 魔法を持たざる者ゆえの感覚
勇者にふさわしい剣技を誇るヒンメルの弱点を挙げるならば、魔法が一切使えないことだろう。魔法がかかわる局面では、仲間のフリーレンや僧侶ハイターに頼りきりで、旅の中では未知の魔法に苦戦する場面も少なくなかったようだ。
だが、弱点も時に長所に変えてしまうのが勇者である。第118話でヒンメルは、「七崩賢」の一角である「奇跡のグラオザーム」が得意とする精神魔法にかかり、深い幻影の世界に閉じ込められてしまう。
同じく魔法にかかったフリーレンとともに自身の状況に気づいたヒンメルだが、グラオザームの「楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)」が作り出した幻影は、フリーレンですら解除できないほどに強力だった。
この絶体絶命の状況で、ヒンメルは「幻影の中にいながら現実世界のグラオザームと戦う」という奇想天外な作戦に打って出る。極限まで集中を高め、現実世界のわずかな衣擦れの音、敵の息遣い、さらには空気を裂く風の動きまでを感じ取り、グラオザームを追い詰めてみせるのだ。
この神業をフリーレンは“持たざる者の研ぎ澄まされた感覚”と評している。魔法による魔力探知を使えないヒンメルだからこそ極限まで五感が鍛え抜かれ、結果として魔法ですら成しえない不可能を可能としたわけだ。


