■自らを餌として差し出す愚地克巳

 克巳は、圧倒的強者である範馬勇次郎や刃牙に相手にされない現実を前に、自らの不甲斐なさを痛感していた。何かを変えなければ……そう悩み抜いた末、彼はマッハ突きの進化という道を見出す。

 中国武術界の頂点・郭海皇との出会いを経て、マッハ突きは「真マッハ突き」へと昇華し、まったくの別物となった。この大きな武器を手に入れたことで、克巳の心の在り方は急激に変化し、相手に命を差し出す覚悟が生まれたのだ。

 恐竜をも捕食する規格外の存在・ピクルも、彼の真マッハ突きを目の当たりにして心を動かされる。この技に、克巳のすべてが集約されていたからだろう。

 真マッハ突きを放つと、その一撃の反動によって克巳の繰り出した手足は破壊されてしまう。それを承知の上で、克巳はピクルに対して最高の一撃を繰り出した。結果、右腕の肉は削げ落ちて二度と使い物にならなくなった。しかし、それでもピクルは倒せなかった。

 ここまでしても勝てないのか……。そう悟った克巳は、負けを素直に受け入れ、己の体をピクルに“餌”として差し出すことを決意する。そこに恐れの気持ちは一切なく、吹っ切れた様子だった。

 そんな克巳の姿を見て、ピクルは彼の右腕を食いちぎる。しかし、そのまま克巳を食すかと思いきや、驚きの行動に出た。ピクルは、その腕を克巳の前にそっと置くと、ひざまずいて手を合わせ、敬意をあらわした後、満足したように去っていったのである。

 これまで甘さが抜けきらなかった克巳が初めて見せた本当の覚悟。彼の姿は、見ていた門下生の心に深く刺さり、全員が正座をして静かに敗れた克巳を称えた。克巳の成長劇には、父である独歩も心を奪われ、後に勇次郎にもそのことを指摘されている。しかし、それだけ衝撃的な敗北だったといえるだろう。

 

 本当に命をかける覚悟で戦いに臨んだ『刃牙』の格闘家たちは、負けた姿すら崇高に見える。死を受け入れたことで悟りの境地に入ったかのような彼らのたたずまいは、そのすべてが美しく感じられる。あなたの心に残っている、『刃牙』シリーズの印象的な敗北シーンには、どのようなものがあるだろうか。

 

■愚地克巳VSピクルの決着シーンをチェック

範馬刃牙(17) (少年チャンピオン・コミックス)
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