■なにがなんでも背中を見られるな…『ジョジョの奇妙な冒険』乙雅三

 とある血統にまつわる因縁をテーマに、時代や舞台を変え、特殊能力「スタンド」を用いた手に汗握る駆け引きが描かれる『ジョジョの奇妙な冒険』。1986年に『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載が開始された荒木飛呂彦氏の作品で、2026年3月からは第7部『スティール・ボール・ラン』のアニメ放映が控えるなど、ますますの盛り上がりを見せている。

 本作には奇妙な能力を持つキャラクターが多く登場するが、なかでもとんでもないデメリットを持つ能力で読者を驚かせたのが、第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場した、乙雅三のスタンドである。

 一級建築士である乙は、漫画家・岸辺露伴の家の修繕見積もりのために現れた。物腰は柔らかなのだが、彼はなぜか頑なに「自身の背中」を見せようとしない。

 実は、彼の背中には知らず知らずのうちにスタンド「チープ・トリック」が憑りついていた。赤ん坊のような姿をした小型のスタンドで、宿主の背中を見られた瞬間に見た相手へと乗り移るという能力を持つ。しかし、乗り移る際に元の宿主の生命力を全て吸い取るため、背中を見られた瞬間に宿主は干からび、そのまま死亡してしまうのである。

 しかもこのスタンドは宿主の味方ではなく、耳元で執拗に嫌がらせをささやき、わざと他人に背中を見せようと画策する邪悪な存在だ。スタンドを直接攻撃すると、そのダメージは憑りついている宿主にも返ってくるため、自力で排除することもできない。

 まともな日常生活を送るどころか、他人とすれ違うことすら命がけとなるこのスタンドは、まさにデメリットでしかない。ある意味、最凶のやっかい能力であろう。

 

 バトル漫画における特殊能力は、多くの場合において読者の羨望の対象となる。しかし、今回取り上げた能力はその特殊な力と引き換えに、どれもこれも理不尽な制約の数々を容赦なく突きつけてくるものだった。

 もし、自分がこれらの力を宿してしまったら……。そう想像したとき、厳しい制約を前にしてもなお「欲しい」と言い切れる者は、はたしてどれほどいるだろうか。

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