『はじめの一歩』読者の記憶に刻まれた「珠玉のKOシーン」幕之内一歩VS千堂武士、鷹村守VSブライアン・ホーク、間柴了VS木村達也も…の画像
『ベストバウト オブ はじめの一歩! 千堂武士VS.幕之内一歩 日本フェザー級タイトルマッチ 豪腕対決編』(講談社プラチナコミックス)

 森川ジョージ氏が描くボクシング漫画の金字塔『はじめの一歩』では、読者の胸を躍らせる名試合が数多く描かれてきた。ボクサーが秘める想いの強さ、ド派手な必殺ブロー、予想外の展開など、何をもって「名試合」と呼ぶかは人それぞれだろう。だが、筆者は「KOシーン」が大きなファクターを占めると思う。

 勝者と敗者を分けるKOの瞬間は、まさにその試合の集大成である。読者はその一瞬を目撃するために、長い練習や試合を追いかけているといっても過言ではない。事実、本作で「名試合」と語り継がれる試合の多くも、KOシーンが印象的である。

 そこで今回は、『はじめの一歩』で読者の記憶に刻まれた、珠玉のKOシーンを振り返ってみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■「幕之内一歩VS千堂武士」デンプシー・ロールの完成型と王者の意地が激突

 まずは、主人公・幕之内一歩が日本チャンピオンに輝いた「幕之内一歩VS千堂武士」の日本フェザー級タイトルマッチのKOシーンである。

 地響きをたてる激しいパンチの応酬となる「ララパルーザ」になると言われたこの試合は、日本最強の破壊力を持つ両者の拳と意地がぶつかり合う熾烈なものとなり、第7ラウンドまでもつれることとなった。

 永遠に続くかと思われた死闘に終止符を打ったのは、一歩の代名詞である必殺ブロー「デンプシー・ロール」を軸とした、コンビネーションだった。

 試合の最終局面で千堂渾身の「スマッシュ」をギリギリで回避した一歩は、左の「肝臓打ち(リバーブロー)」で千堂のあばらを粉砕。続いて「目のフェイント」で頭を狙うと見せかけ、空いたアゴをアッパー気味に貫く「ガゼルパンチ」で撃ち抜く。そして、完全にのけぞった千堂に対し、とどめの「デンプシー・ロール」を叩き込み、最強のライバルをリングに沈めてみせた。

 「肝臓打ち」から「ガゼルパンチ」、そして「デンプシー・ロール」とつなぐこのコンビネーションは、師匠の鴨川源二会長をして「デンプシー・ロールの完成型」と言わしめたほど。それまで一歩が習得してきた必殺ブローを叩き込む連続攻撃はまさに集大成であり、日本チャンピオンの誕生を告げるにふさわしい、圧巻のフィニッシュであった。

 また、この試合は千堂の散り際も印象的だ。「見届けるんや! ワイに…… ワイに勝った男の顔を!!」という思いで最後の力を振り絞って立ち上がった千堂は、立ったまま10カウントを宣告され、KO負けを喫した。自分が負けたと理解した上で意地を貫いた千堂も、実にあっぱれな男である。

■「鷹村守VSブライアン・ホーク」すべての鬱憤を晴らした鷹村のワンツー

 次は、作中最強との呼び声も高い“怪物”・鷹村守が初めて世界王座を獲ったWBC世界J(ジュニア)・ミドル級タイトルマッチである。名試合が多い本作でも非常に人気が高く、ベストバウトとしてこの試合を挙げる読者も少なくない。

 対戦相手のブライアン・ホークは、日本人とボクシングそのものを見下す傲慢な男であり、練習をまともにせず天賦の才能だけでチャンピオンに登り詰めた。試合前の記者会見でも過激な挑発行為や鴨川会長に対して暴行に及ぶなど、まさに筋金入りの悪役だ。「どうかコイツを倒してくれ!」という読者の願いに応えたのが、鷹村だった。

 ともに世界トップクラスの才能を持つ怪物同士の戦いに決着がついたのは、第8ラウンドでのことだ。第7ラウンドで初めて“殺される恐怖”を味わい、怯えるホークを鷹村が最後の力で攻め立てる。一時は野生に目覚めたホークに、驚異的な上体反らしからのカウンターを狙われるが、野生と科学を融合させた鷹村のボクシングがこれを迎撃。打ち下ろしのパンチでホークをリングに叩きつける見開きの描写は、圧巻の迫力だ。

 万策尽きたホークはかろうじて立ち上がるも、「せっかく気分良く王様のイスに座ってたのに」「お前さえいなきゃ…」とつぶやくのが精一杯。そんなチャンピオンの泣き言を意に介さず、左ジャブからの右ストレートを叩きこむ鷹村。これがとどめとなり、ホークは口から血を吐きながら崩れ落ち、鷹村はついに念願の世界ベルトを手にしたのである。

 ホークが吐血するKOシーンは絶大なインパクトを誇るが、個人的には「ワンツー」でフィニッシュを決めた点が興味深い。左ジャブから右ストレートを打ちこむこのコンビネーションはボクシングの基本であり、鷹村が鴨川会長のもとで何万回と繰り返し練習してきたものだった。

 ボクシングをバカにして練習を怠った天才・ホークを、基本に忠実な一撃で打ち破る。この試合の決定打に、これ以上ふさわしいパンチはないのではないだろうか。

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