■冷徹な微笑みと声で嫁を追い詰めた『ずっとあなたが好きだった』野際陽子

 1992年に放送され、当時“冬彦現象”とも呼ばれるブームを巻き起こしたTBS系列のドラマが『ずっとあなたが好きだった』である。

 本作は佐野史郎さん演じるマザコン男・桂田冬彦と、ヒロイン・西田美和(賀来千香子さん)の結婚生活を中心としたサスペンス調のラブストーリーだ。本作で冬彦を溺愛し、美和を冷酷にいびる姑・桂田悦子を演じたのが、野際陽子さんである。

 それまでにも、嫁いびりをする姑が登場するドラマはあったが、その多くは嫁に対し、怒鳴り散らすなど高圧的な態度を取るイメージがあった。しかし、野際さんの演じる姑は常に上品で落ち着いたトーンを崩さず、優雅かつ冷徹な微笑みを浮かべながら、“あなたにやましいところがなければそれで良いのよ……”と、嫁の心をじわじわと削っていく。その様子がかえって恐ろしかった。

 作中、悦子は冬彦と一緒に美和を追い詰めるシーンも多いのだが、その際、冬彦はほぼ喋らない。息子の行動や考えをすべて悦子が代弁し、冬彦はその隣でじっとしているだけなのだ。そんな異常な親子の結びつきは、美和にとって“この家には居場所がない”と思わせるには十分すぎた。

 それまで知的で凛としたイメージが強かった野際さんが、これほどまでに振り切った「毒親・毒姑」を演じたことは、世間に大きな衝撃を与えた。本作の好評を得て、後に放送された『誰にも言えない』でも同様の路線で怪演を披露。「野際陽子=最強の姑役」というパブリックイメージを決定づけたのである。

 

 1990年代から2000年代にインパクトを残したドラマの悪女たち。彼女たちは単に憎まれるだけの存在ではなく、作品を唯一無二の名作へと昇華させた立役者でもある。そして、悪女を演じた名女優たちの怪演もあり、上記に紹介したドラマはいずれも高い視聴率を叩き出し、ブームも巻き起こしている。

 コンプライアンス表現の制約が厳しい現代において、これほど強烈な悪女を登場させるのはなかなか難しいかもしれない。それでもまた私たちの記憶に深く残るような、令和版の悪女の登場に期待したいものである。

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