バラエティ番組で常に私たちを笑わせてくれるお笑い芸人たち。今でこそ「芸人兼俳優」として活動するタレントは珍しくないが、かつては“バラエティの顔”としてのイメージが強すぎるあまり、映画やドラマへの出演そのものが大きな話題となることも多かった。
実は今でも「あの芸人がこんなドラマに出ていたなんて!」と、驚かれるケースも少なくない。今回は、普段の芸風を封印し、圧倒的な存在感で作品の世界に溶け込んだお笑い界のスターたちを振り返る。
※本記事には各作品の内容を含みます
■後に繋がる得体の知れなさ…『自主退学』タモリ
もはやお笑い界の伝説ともいえるタモリさんは、80年代から90年代にかけて、多くのドラマで主演を務めていた。その中の一作が、1990年に放送された『自主退学』である。
本作は、不良生徒が蔓延する高校を舞台に、手を焼いた教師たちが最終的に生徒たちを「自主退学」へと追い込んでいくストーリーだ。校内暴力や管理教育の闇に切り込んだ社会派ドラマであり、タモリさんは生徒から激しい暴行を受ける高校教師・友田一幸を演じた。
普段はサングラスがトレードマークのタモリさんだが、本作ではメガネ姿にスーツを着こなし、ちょっと頼りない教師を演じている。泥まみれになって生徒から暴行を受ける様子や、反対に生徒の名前を叫びながら掴みかかる様子などは、バラエティ番組で見せる飄々とした雰囲気とはまったく違い、衝撃的だ。
ただし、本作でのタモリさんは熱血教師ではなく、他人の行動をどこか淡々と見つめる冷静な観察者としての立ち位置が強い。このドラマで見せた底知れない“得体の知れなさ”は、後の『世にも奇妙な物語』におけるストーリーテラーとしての独特な存在感にも共通しているのかもしれない。
■不器用な男の哀愁が胸を打つ…『鉄道員(ぽっぽや)』志村けん
1999年公開の映画『鉄道員(ぽっぽや)』は、浅田次郎さんの短編小説を実写化した名作映画だ。主演の高倉健さんが演じる鉄道員の物語の中で、炭鉱の町で必死に泥臭く生きる1人の男を演じたのが、国民的コメディアンの志村けんさんだった。
志村さんといえば、「バカ殿様」や「変なおじさん」といった強烈なキャラクターで知られていたが、本作では白塗りメイクもギャグも一切封印。彼が演じたのは、運命に翻弄される臨時工の炭坑夫・吉岡肇である。
食堂で現地の炭鉱夫たちと諍いを起こし、酔いながらも男たちと言い争い、必死に掴みかかる演技は真に迫るものであった。そこには普段の爆笑を誘う顔ではなく、人生の悲哀と不器用な優しさが滲み出ていたように思う。
実は、志村さんはもともと俳優業に消極的だったという。しかし、高倉さんから直々に出演依頼のメッセージが留守番電話に残されており、「健さんの使命ならば」と、出演を決意したという。
スクリーンの中にいたのはいつもの志村さんではなく、厳しい時代を生き抜いた男性の姿であった。もしも志村さんが存命であったなら、後に俳優としても多くのキャリアを積んでいたかもしれない……。そう思わずにはいられないほどの名演であった。


