ヤン&ラインハルトにも劣らない輝き…『銀河英雄伝説』稀代の知将たちが披露した「見事すぎる戦術」 キルヒアイスにユリアン、そして老将ビュコックも…の画像
『銀河英雄伝説 COMPLETE GUIDE』(徳間書店)書影

 田中芳樹氏による小説『銀河英雄伝説』は、銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家の争乱を描く壮大なスペースオペラだ。両陣営を代表する名将ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーが指揮する艦隊は、知略を尽くした見事な作戦によって連戦連勝を重ねる。

 だが、本作の主役ともいえるラインハルトやヤン以外の提督にも、見ている者を唸らせるような秀逸な作戦を披露し、大きな戦果を挙げる場面もある。今回は、そんな鮮やかな手並みや洞察力に驚かされた非凡な逸材たちを紹介したい。

※本記事には作品の内容を含みます。

■最新鋭の技術を用いて攻略! キルヒアイスの反乱鎮圧作戦

 まずは、石黒昇監督によるOVA版で描かれた、カストロプ動乱の鎮圧時にジークフリード・キルヒアイスのとった作戦を紹介したい。ラインハルトの幼なじみでもあるキルヒアイスが、その関係性だけを理由に重用されていると揶揄する門閥貴族に、本当の実力を見せつけたエピソードといってもいい。

 帝国に反旗を翻したカストロプ公は、自らの領地である惑星カストロプの周囲に攻撃衛星を配置し、帝国の鎮圧部隊は攻略に苦慮していた。この攻撃衛星は惑星に近づこうとする艦艇に無人の衛星が攻撃を加えるという鉄壁の対空システムである。

 これは自由惑星同盟の首都星ハイネセンを守る「アルテミスの首飾り」と呼ばれる攻撃衛星と同じもので、反乱の首謀者たるカストロプ公に絶対的な安心感を与えていた。

 のちにヤンは同盟軍内で反乱が発生した際、反乱軍の切り札でもあったこのアルテミスの首飾りをすべて破壊する。その作戦は、アルテミスの首飾りに存在する微弱な重力を利用し、巨大な氷の塊をぶつけて壊すという方法だった。これにより味方に1人の犠牲も出すことなく防衛の要を破壊し、反乱軍の戦意を喪失させた。

 その作戦自体もかなり奇抜で誰も予想できない手段だったが、実はそれより先にキルヒアイスは、別の手段を用いて犠牲を出さずに攻略していたのである。

 キルヒアイスが用いたのは「指向性ゼッフル粒子」という新兵器を用いた作戦だった。本作にたびたび登場するゼッフル粒子という物質は、火気に触れると大爆発を起こす性質を持つ。「気体爆弾」とも呼ばれ、これを充満させることで白兵戦において銃火器などを使えなくするという効果があった。そこに、噴霧範囲を遠隔制御できる指向性ゼッフル粒子が開発されたのだ。

 キルヒアイスは、アルテミスの首飾りの射程外から工作艦を用い、指向性ゼッフル粒子を攻撃衛星の周辺に散布。それを爆発させることで、すべての攻撃衛星を無効化した。

 できたばかりの新技術を効果的に活用し、これまで友軍が苦戦していた難敵をあっさり攻略してみせたキルヒアイス。その知略と鮮やかな手腕は、これまでラインハルトの陰に隠れていた逸材を表舞台に引き上げるだけの破壊力があった。

■「ヤンの後継者」たる片鱗を見せたユリアンの卓越した洞察力

 続いてはイゼルローン要塞を巡る攻防戦で、ユリアン・ミンツの非凡さを証明したエピソードを紹介したい。

 同盟軍は、難攻不落のイゼルローン要塞を不敗の名将ヤンが守ることで、帝国軍の侵攻をほぼシャットアウトしている状態だった。

 同盟本土へとつながる要所を抑える要塞の再奪取に頭を悩ませる帝国軍は、イゼルローン要塞とほぼ同等の機能を持ったガイエスブルグ要塞をイゼルローン回廊にワープさせ、この軍事要塞を橋頭堡にして戦いを挑むことに。カール・グスタフ・ケンプ大将を総司令官として戦いの火ぶたが切られた。

 折しもこの時ヤンは首都星ハイネセンに召喚され、イゼルローン要塞に不在だった。そのため要塞事務監だったアレックス・キャゼルヌが司令官代理を務め、不慣れな防衛戦の指揮をとることになる。

 キャゼルヌはヤン不在のなか苦戦を強いられるも、客員提督メルカッツの手助けもあってなんとかしのいでいた。

 そんな中、帝国軍はヤンの不在を確信し、イゼルローン要塞にいる同盟軍を罠にかける作戦を思いつく。それは帝国軍が同盟領土側に進軍し、同盟の援軍が到着したと思わせ、要塞内から出てきた要塞駐留艦隊を反転して攻撃。駐留艦隊に「援軍がきたというのは罠」と思わせて要塞内に封じこめ、圧倒的大軍でヤンのいるであろう援軍を叩くという目論見だった。

 このケンプの狙いはイゼルローンにいる同盟陣営を混乱させ、本当に援軍が来たのか、それとも帝国側のしかけた罠なのか、大いに頭を悩ませることになる。

 だが、そのとき「両方かもしれません」と発言したのが、ヤンの一番弟子であるユリアン・ミンツだった。援軍は近くまできているのは間違いなく、帝国軍はそれを利用して罠にはめようとしていると、ユリアンはケンプの狙いを見事に看破したのである。

 そしてそれを逆手にとって、イゼルローン駐留艦隊は要塞内に戻ったふりをするという作戦で、駐留艦隊と同盟の援軍で帝国艦隊を挟み撃ちすることに成功する。

 ヤン亡きあと、彼の後継者と呼ばれることになるユリアンが、その類まれなる軍事的才能を最初に披露した戦いということで非常に印象深い。

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