■老将ビュコックの最後の意地 マル・アデッタでの見事な立ち回り
最後に、同盟軍としての事実上最後の軍事作戦となったマル・アデッタ星域会戦をとりあげたい。
一度は軍を退役したアレクサンドル・ビュコックが総司令官として復帰し、同盟領を侵攻する帝国軍の大軍を迎え打つことになった。同盟側は何とか2万隻の艦艇をかき集めたが、帝国軍の名将たちが率いる大軍に比べれば戦力差は歴然だった。
誰もが「同盟軍に勝機はない」と確信する状況下で、ビュコックは老獪な戦術で立ち向かう。
帝国軍の先陣を務めたグリルパルツァーとクナップシュタインの両提督は、「次世代の双璧」といわれる若手の期待株だったが、ビュコックはそんな2艦隊をいきなり手玉にとる。
その後、小惑星帯を巧みに利用する戦術で艦艇数の差をカバーし、圧倒的多数の帝国軍と互角の戦いを繰り広げた。そしてラルフ・カールセン提督の率いる分艦隊が、あわや帝国軍の本体を捉えようとするところまで追い詰める。
その見事な手腕は、帝国軍が誇る名将ミッターマイヤーが「老人め、やる」と率直に称賛したほどであった。
だが、精鋭ぞろいの帝国軍に対して、そもそも数をかき集めただけの混成部隊である同盟軍は次第に劣勢に追い込まれ、やがて勝負は決する。
しかし石黒版OVAでは、それまでビュコックが指揮する同盟軍が優位に戦いを進める描写が目立ち、筆者は「もしかして同盟軍が勝つのでは……!?」と思ったほど。
あれだけ大きな戦力差がありながら、あわや帝国軍の旗艦を狙えるほどの善戦をしたのだから、この展開を生み出したビュコックという人物の凄さを実感させられる戦いだった。
『銀河英雄伝説』の劇中において、ヤン・ウェンリーが「魔術師」と称されたように、少数の戦力で多数を倒す鮮やかな戦術は、まるで魔法を見ているようである。ヤンやラインハルト以外にも見事な戦術を披露し、物語を俯瞰して見ている我々さえも驚かせてくれる逸材がいるのも、本作の魅力といえるだろう。


