■「ベネズエラの太陽」の残酷な姿…『あしたのジョー2』
最後に取り上げたいのは、原作・高森朝雄(梶原一騎)氏、作画・ちばてつや氏による不朽の名作『あしたのジョー』です。同作のテレビアニメは、出﨑氏が監督、杉野昭夫氏が作画監督を務め、いわゆるアニメ界の黄金コンビ「出﨑・杉野コンビ」が手がけた作品となります。
1980年に放送された『あしたのジョー2』では、宿命のライバル・力石徹の死を乗り越えた矢吹丈とカーロス・リベラの死闘などが描かれました。
その『あしたのジョー2』の演出として有名なのが、丈の「光る嘔吐物」かもしれません。力石の死がトラウマとなり、その原因となったテンプル(こめかみ)を打てなくなった丈。彼がリングで嘔吐する場面を、透過光を用いたキラキラとした演出で描き、丈が抱える深い心の傷をより鮮烈に視聴者に伝えました。
そんな本作での最大のトラウマ回が、第39話「ジャングルに…野獣が二匹」。この回は、出﨑監督がさきまくら名義でコンテも担当していました。
キザな伊達男で、持ち前の陽気さから「ベネズエラの太陽」と呼ばれたカーロス。第10話のエピソードでは、サンタに扮したカーロスが子どもたちにプレゼントを配るアニメオリジナルの展開があり、丈とはライバルを超えた友情で結ばれていきます。その後、繰り広げられる二人の死闘は、まばゆいばかりの輝きを放ち、多くのファンを魅了しました。
しかし第39話で丈とカーロスは久々の再会を果たしますが、このときカーロスは別人のようになっていました。ホセ・メンドーサに敗れ、長らく姿を見せなかったカーロスは、パンチドランカーになっていたのです。
薄汚れた姿で、目もうつろなカーロス。控室で丈に向けて繰り出した拳は弱々しく、かつて稲妻のようだった彼のジャブは見る影もありません。元気で強かった頃のカーロスを思い出しながら、丈は涙を浮かべます。
そして丈が贈ったシャツのボタンすら自分でとめられない状態のカーロスは、己の不甲斐なさからか涙を流すのです。
以前のカーロスの輝きや丈との関係性が「これでもか」というほど丁寧に描写され、だからこそ、かつての面影を失ってしまった彼の姿は、当時の視聴者に言葉にできないほど大きな衝撃を与えました。
出﨑監督が手がけた作品では、多くのキャラが鮮烈な存在感を放ち、映像の中にまるで命が宿っているかのように動き回ります。それを見ている我々は、いつしか作品に引き込まれ、喜びや悲しみ、そして恐怖さえも一緒に体験しました。
2011年4月17日、出﨑統監督は肺がんのため67歳で急逝され、2009年放送のテレビアニメ『源氏物語千年紀 Genji』が実質的な遺作となりました。しかし、これまで出﨑監督が生み出してきた数々の名作を見返して氏独特の演出を目にするたびに、その偉大さを再認識させられるのです。


