■少女を襲った悲劇を容赦なく描いた『ベルサイユのばら』

 池田理代子氏の漫画『ベルサイユのばら』は、1979年よりテレビアニメ化。『ベルばら』の愛称で多くの少女たちから愛された本作は、フランス革命を舞台に男装の麗人オスカルと王妃マリー・アントワネットの生涯を描いた物語です。

 出﨑氏は、テレビアニメの第19話から最終回(第40話)まで監督(チーフディレクター)として途中参加し、「さきまくら」の名義で絵コンテも担当。出﨑監督に交代して以降は、それまでの愛らしい絵柄から、迫力あふれるリアルな作風へと変化。画面分割を多用することで緊張感を演出し、物語に厚みを持たせました。

 個人的にもっとも印象的だったのが、出﨑監督が手がけた初回となる第19話「さよなら、妹よ!」。アントワネットから寵愛を受けるポリニャック伯夫人は権力を強固にするため、11歳の娘シャルロットを43歳のド・ギーシュ公爵に嫁がせようとします。

 また、オスカルを慕うロザリーの育ての母を殺した憎き仇ポリニャック夫人が、ロザリー自身の実母であることを知るという悲劇的な回でもありました。

 出﨑監督は、原作では複数話に分かれていたシャルロットの結婚エピソードを1話にまとめ、大胆なオリジナル要素まで加えて11歳の少女を襲った悲劇を描いたのです。

 原作では名前だけだった公爵を、アニメで描いたことで好色なキャラであることが生々しく表現され、無垢な少女との対比が際立ちます。

 嫌がるシャルロットの右手に公爵が無理やり口づけするシーンでは、恐怖で固まっていた少女の心が壊れていく様を表情の変化で見事に表現。きれいに結い上げた髪が崩れ、ベルサイユ宮殿の噴水で笑いながら右手を洗うシャルロットの姿に、当時彼女と同年代だった筆者は胸が締めつけられました。

 そしてアニメでは高い塔から身を投げ、大勢の貴族にその最期を記憶させたシャルロット。黒一色の背景に彼女が手にしていた白いバラが落ち、少女の亡骸は単色で描かれた観衆に囲まれます。その場面を描いた切ない止め絵とともに、名乗り合うことすらできなかった実妹の死を悲しむロザリーの悲痛な叫びがこだまするのです。

 出﨑監督が作り上げたこの美しくも哀れなシーン描写は、視聴者の心にトゲが刺さったかのようなトラウマを植えつけました。

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