■冷徹な策士も老犬には甘かった…!?「オーベルシュタイン」

 「冷静沈着。合理主義の権化。目的のためなら非情な決断も辞さない」。

 参謀として、そしてローエングラム王朝では軍務尚書としてラインハルトを支えてきたパウル・フォン・オーベルシュタインは、そういった評価で語られることが多い。

 オーベルシュタインを語るうえで外せないエピソードが、惑星ヴェスターラントの一件だろう。銀河帝国の内乱で、ラインハルトと敵対する門閥貴族を率いるブラウンシュヴァイク公が惑星ヴェスターラントに核攻撃を命じた際、ラインハルトは阻止できる立場にいた。

 だがオーベルシュタインは、ブラウンシュヴァイク公に核攻撃を行わせて民心を失ってくれたほうが戦争の終結は早まり、結果的に被害は小さくなると進言。ラインハルトに犠牲を容認するよう求めたのである。

 人道的な面からギリギリまで迷っていたラインハルトだが、オーベルシュタインの思惑通りに事は進む。核攻撃が行われたことで、彼の言うとおり戦役の終結は早まり、戦いが長引くよりも被害は小さく済んだのである。

 目的達成のためなら徹底的に感情を排し、「冷血漢」と呼ばれてもおかしくない残酷な策を取り入れるのがオーベルシュタインという男なのだ。

 しかしそんな彼が老犬を拾い、自邸で面倒を看ていたという事実はあまりにも意外に思えた。それもやわらかく煮た鶏肉しか食べないという老犬のため、夜中に自ら肉を買いに走ったというエピソードまでミュラー提督から語られる。

 オーベルシュタインは死の間際、「犬にはちゃんと鳥肉をやってくれ。もう先が長くないから好きなようにさせてやるように」と遺言にまで残していた。

 目的遂行のためにはどれだけ嫌われようと意に介さないオーベルシュタインが、実は動物には優しいという一面に対し、ビッテンフェルトが「人間には嫌われても犬にだけは好かれるらしい」と皮肉を口にしていたのも印象的だった。


 ビッテンフェルト、ラング、オーベルシュタイン……表面的なイメージだけでは語り尽くせない意外性を秘めていた点で心に残る人物たちだ。こうした描写が積み重なることで、『銀河英雄伝説』という物語は、単なる英雄譚では終わらない重みとリアリティを構築したのだろう。

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