あまりのギャップに驚き…『銀河英雄伝説』“性悪キャラ”が秘めた「意外すぎる一面」 オーベルシュタイン、ラングにビッテンフェルトも…の画像
CD「銀河英雄伝説 わが征くは星の大海 音楽編」(徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 田中芳樹氏による『銀河英雄伝説』は、銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家の存亡を描く壮大なSF小説。アニメや演劇にもなっており、幅広い層から支持されている人気作だ。その作中には、個性的な登場人物も数多く登場し、強烈な印象を残したキャラも少なくない。

 「猪突猛進の猛将」「冷酷無比な策略家」「権力欲に取り憑かれた官僚」など、分かりやすい特徴を持ちながら、そんな人物がたまに見せる“意外な一面”に驚かされることもある。

 ふだんのイメージでは測れない人間の多面性がしっかり描かれているからこそ、その人物が思いがけない行動をとったときに魅力的に映るのだろう。

 ともすれば分かりやすいレッテルをはられがちな3名のキャラクターに注目しつつ、そんな彼らが作中で見せた「意外な一面」を振り返ってみたい。

※本記事には作品の内容を含みます。

■「猪武者」の印象からは想像できない繊細な差配を見せた「ビッテンフェルト」

 まずは、銀河帝国における最強の攻撃力を誇る艦隊「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)」の指揮官、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトから紹介したい。

 彼は同盟軍の名だたる提督を倒し、武勲だけでいえば帝国内で並ぶものはないほどの猛将だ。ただ、「アムリッツァ星域会戦」「回廊の戦い」という2つの戦いでヤン艦隊に大敗を喫した印象もあって、「猪突猛進の猪武者」という評価が定着している。

 気性の激しい武人のイメージが強い彼だが、実はその人物像を一変させるようなエピソードが存在する。

 ラインハルトから、功績のあった部下に恩賞を与えるよう命じられた際に、ビッテンフェルトが推薦したのは、勇猛果敢に戦った前線の兵士ではなかった。彼が推したのは、戦場の最前線から遠く離れた後方にいた、病院船の乗員たちだったのだ。

 常に最前線に立つビッテンフェルトならば、前線で活躍した人物を高評価するだろうという予想を、いい意味で裏切ったといえる。

 艦隊を率いる提督ともなれば、目立たない裏方的な存在にまで目が向かない可能性も考えられる。だが、常に最前線で戦い、激しい消耗を繰り返してきたビッテンフェルトだからこそ、負傷兵の治療や補給といった地味に思われがちな職務の重要性を誰より認識していたのだろう。

 いつも荒々しい口調で、時には「勝利の女神はお前らに下着をちらつかせている」といった下品なたとえまで口にするビッテンフェルト。だが、部下からは相当慕われていた。その裏側には、ふだんの彼のイメージからはかけ離れた、思った以上に繊細な一面が評価されていたのかもしれない。

■野心家の仮面に隠されていた意外な素顔「ラング」

 続いて紹介するのは、ハイドリッヒ・ラングである。彼は銀河帝国の官僚で、ゴールデンバウム王朝時代は秘密警察組織である社会秩序維持局の局長をつとめ、ラインハルトが帝位について以降は、内国安全保障局の局長になった男だ。

 禿げあがった頭に小太りの中年という、見るからに小物感が漂う人物である。『銀英伝』ファンでも、彼に好意的な印象を抱いている人は少ないのではないだろうか。

 それは作中でも同様で、かつて秘密警察に属していた時点で新帝国では嫌われている。そのうえラングは、出世のために権力者にペコペコしたり、その地位を利用しようと画策したりと、銀河帝国軍の幹部の多くが、彼に対していい印象を抱いていない様子だった。

 あげく、上級大将以上しか列席が許されていない閣議に無断で出席したことを帝国の重鎮ロイエンタールに叱責されて逆恨み。彼を私怨で陥れようとしたり、フェザーン自治領の代理総督に就いたニコラス・ボルテックに無実の罪を着せて謀殺したりと、その悪逆非道ぶりは枚挙にいとまがない。

 ところがそんなラングは、家庭ではよき夫であり父親で、妻子をとても大切にしていたことが判明。さらに衝撃的なのはラングは下級官僚時代から、給料の一部を福祉慈善事業に匿名で寄付していたという事実が明らかになるのである。

 匿名である以上、売名行為というのは考えられず、完全に彼の善意で行っていたと思われる。

 その理由について作中では深く語られなかったが、いずれにしても“身勝手な悪徳官僚”というラングの印象からはまったく想像できない、意外な一面に驚かされたエピソードだ。

 本作の英雄たちの中には、戦時において傑出した才覚を示しながら、家庭人としては破綻している者もいる。それを考えると、ラングは公人としては悪辣な面があったものの、私人としては家庭や社会を大切に考える理想的な人物であり、彼の表面しか知らない人からすれば、むしろラングのほうがまともな人間、という見方もできるのかもしれない。

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