昭和の劇場版『聖闘士星矢』はなぜファンに愛されるのか…オリジナル要素満載でも「大絶賛」される理由【昭和オタクは燃え尽きない】の画像
DVD「聖闘士星矢 邪神エリス」(東映ビデオ) (C)車田正美/集英社・東映アニメーション

 車田正美先生の代表作『聖闘士星矢』は、1985年(昭和60年)から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が始まり、日本中に熱狂を巻き起こしたバトル漫画です。

 ギリシア神話をモチーフに、星矢たち5人の少年が星座の名前を冠する甲冑「聖衣(クロス)」をまとい、己の「小宇宙(コスモ)」を燃やして地上の平和のために戦うアツい物語は、今も色あせない魅力に満ちています。

 本作は連載開始から1年足らずでテレビアニメ化され、その人気を不動のものに。1987年からは劇場アニメも制作され、それがシリーズ化。昭和に製作された『星矢』のアニメ映画は、短編とは思えないほど濃密な内容で、圧倒的に美麗な映像でファンを驚かせました。

 その劇場アニメの美しい映像とキャラクターを手がけたのが、キャラクターデザインや原画に名を連ねる伝説のアニメーター、荒木伸吾さんと姫野美智さんの名コンビ。『惑星ロボ ダンガードA』(1977年)や『ベルサイユのばら』(1979年)などでもタッグを組み、アニメ黎明期といわれた1970年代から80年代の黄金期にかけてを支えた2人の作画は、アニメ映画を芸術の域にまで高めました。

 そのほかにも劇場映画の制作陣には、総指揮を務める今田智憲さんをはじめ、テレビシリーズを熟知したメンバーが集結しています。

 そこで今回は当時のアニメファン、車田ファンを魅了した「荒木&姫野コンビ」による美麗なアニメ映像と、オリジナル展開が光った昭和の劇場版『聖闘士星矢』3作品を振り返りたいと思います。

※本記事には各作品の内容を含みます。

■シリーズの“王道"を確立した記念すべき第1作目『邪神エリス』

 劇場映画の第1作『聖闘士星矢 邪神エリス』は、1987年(昭和62年)7月に「東映まんがまつり」の1編として公開された46分の短編作品です。当時のタイトルはシンプルに『(劇場版)聖闘士星矢』でしたが、2004年のDVD化に際し、現在の副題がつけられました。

 物語は、黄金のリンゴに封印されていた「争いの女神エリス」が、孤児院で働く少女・相沢絵梨衣(エリイ)に憑依。アテナこと城戸沙織の命を奪うことで自身の完全復活を目論むエリスは、亡霊聖闘士(ゴーストセイント)を率いて、星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)の前に立ちはだかるという内容です。

 冒頭から、車に轢かれそうな絵梨衣を救う氷河、孤児院の子どもに聖闘士の自慢をする星矢、日本で乗馬を楽しむ沙織など、メインキャラたちの日常生活が丁寧に描かれます。これは「東映まんがまつり」で初めて本作に触れる子どもたちへの“キャラクター紹介”の意味合いも兼ねていたのでしょうが、ファンとしてはうれしい描写でした。

 そして本作の大きな見どころの1つが、女性ファンから大人気だった氷河と絵梨衣の切ないラブロマンスです。劇中では互いの生い立ちから惹かれ合う描写や、エリスに憑依されたことによる悲劇的な展開で、多くの女性ファンをヤキモキさせました。

 エリスの声は藤田叔子さんが務め、亡霊聖闘士にも水島裕さん、三ツ矢雄二さん、難波圭一さん、中尾隆聖さんといった当時の主役級のキャストを配するなど超豪華。個人的には三ツ矢さん、水島さん、難波さんの起用は、テレビアニメ『タッチ』や『六神合体ゴッドマーズ』(1981年)での「W双子キャラ」を彷彿させ、胸が熱くなりました。

 本作は、その後のシリーズの「雛形」となった意味でも重要な作品です。とくに窮地の星矢が射手座の黄金聖衣(ゴールドクロス)をまとい、黄金の弓矢で逆転する展開は、原作に先駆けて本作で初めて描かれ、のちにクライマックスの王道パターンとなりました。

 また、琴座のオルフェウスのキャラクターデザインや設定は、のちのテレビアニメのオリジナル展開「アスガルド編」のミーメや、原作の「ハーデス編」のオルフェへとつながるデザイン。そっくりの意匠のキャラクターが設定を変え、3か所に存在するという珍しいケースが生まれました。

 一方、劇場版のオリジナルキャラ「矢座の魔矢」が美少年なのに対し、原作の「矢座のトレミー」は地味顔。実は、映画の公開時期とテレビアニメでのトレミーの初登場(第41話)がほぼ同時期で、聖衣のデザインや、無数の矢に致命的な一本が含まれるという必殺技の特徴、声優が小林通孝さんなど共通点が多かっただけに、「あれっ?」と思った人もいたようです。

 さらに、テレビアニメ版オリジナルの「幽霊聖闘士(ゴーストセイント)」の登場から半年も経たずに、劇場映画オリジナルの「亡霊聖闘士」が登場。その流れをリアルタイムで見ていた筆者は「どこまでが地続きなのか……」と、複雑に設定が絡み合いながら膨張していく世界にワクワクしていました。

 映画の公開当時、原作漫画では星矢がアイオリアと十二宮で死闘を繰り広げ、テレビアニメ版では黄金聖闘士が登場したりと、まさに「十二宮編(黄金聖闘士人気)」の熱狂の真っ只中。「聖闘士星矢ブーム」の絶頂期といっても過言ではありませんでした。

 テレビアニメ約2本分という短い尺の中で「アテナの危機」「ド派手なアクション」「一輝の加勢」、そして絶体絶命の状態からの大逆転劇……。そんな作品の魅力がギュッと詰まった本映画は、個人的には今も『星矢』の最高の入門編であり、最高傑作と呼びたい作品です。

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