■帝国最強の艦隊を陰で支えた「グレーブナー」
最後に紹介したい人物も帝国軍から。黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)の参謀長を務めた「グレーブナー」だ。チュン・ウー・チェンやベルゲングリューンと比べても、さらに印象に残りづらい地味な参謀ではあるが、それも上官であるフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトの個性が強すぎるがゆえであろう。
ビッテンフェルトは、自ら「猪突猛進こそ我らの本領」というほどの猛将であり、彼の率いる強力な艦隊は名だたる同盟軍の諸将たちを物語序盤から戦場に沈めてきた。
そのビッテンフェルトの片腕を務めるグレーブナーは、そんな上官に心酔。考え方も非常に近く、戦わずとも謀略でヤンを捕虜にすればいいと進言した部下に対してビッテンフェルトが激怒した際、グレーブナーもその卑劣な策に否定的な反応を示していた。
ただし、グレーブナーは単なるイエスマンではない。ヤン率いる一派とイゼルローン回廊で激突した「回廊の戦い」では、黒色槍騎兵艦隊がイメージに似合わない慎重な攻めをした場面がある。
ヤンの奇策を警戒するビッテンフェルトは、グレーブナーに「どう思う、参謀長」と意見を求めた。このときグレーブナーは、敵の出方を見るために進軍を緩めたほうがよいと慎重策を提案。意外にもビッテンフェルトはそれを聞き入れたのである。
このとき対峙していたヤン艦隊のダスティ・アッテンボローからも「らしくない」と言われるほど意外な動きだったが、これもビッテンフェルトのグレーブナーに対する信頼の現れだったのかもしれない。
そんなグレーブナーだが、上官のビッテンフェルトがオーベルシュタインに暴行を働いたことで軟禁された際は激発。上官を助けるためにオーベルシュタインの部下と衝突しかけるという熱い面も見せている。
時には冷静に上官を抑え、時には血の気が多いところも見せる。そんなところに人間味が感じられ、ある意味ビッテンフェルトと似た者同士にも見えて好ましく思えた参謀だった。
『銀河英雄伝説』において、個性あふれる艦隊司令官たちは話題になりがちだが、参謀にも興味深い逸材は多かった。作品が生まれてから何十年も経った今も、ファンが集まれば田中芳樹氏の生み出したキャラクターの話で盛り上がれるのだから、実に偉大な作品である。


