『銀河英雄伝説』地味だけど超優秀だった「名参謀」たち 司令官にもファンにも愛された“抜群の人間性”の画像
『銀河英雄伝説 Blu-ray BOX スタンダードエディション 1』(ポニーキャニオン) (C)田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー

 作家の田中芳樹氏が脳内出血で倒れ、現在はリハビリに励んでいることが報じられた。多くのファンが一刻も早い回復を願っているはずだ。

 田中芳樹氏の代表作といえば、『銀河英雄伝説』を挙げる人も多いのではないだろうか。

 同作は銀河系を舞台に、銀河帝国と自由惑星同盟という2つの国家の争乱を描いた壮大なスペースオペラ。物語の中心になるのはラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーという2人の英雄であり、知略を尽くして戦場で激突する様子が描かれた。

 それぞれの陣営ごとに宇宙艦隊を率いる数多くの名将たちが登場。そして、そんな名将を支えるのが「参謀」という存在である。参謀は艦隊司令官を補佐し、時には的確な助言を行うことになるが、司令官の足りない部分を補う役回りを担うことも多い。

 たとえば、奇策が得意なヤンには常識派のムライが参謀につき、常人であれば何を考えるかという視点から意見を述べることが目立つ。また、ラインハルトの参謀を務めるオーベルシュタインは謀略を得意にしており、ラインハルトには難しい「汚れ役」を自ら担っていた。

 このように名将の傍らに欠かせない参謀だが、花形の艦隊司令官に比べるとどうしても地味に映りがちである。今回はそんな参謀にスポットを当て、彼らの魅力を探ってみたい。

※本記事には作品の内容を含みます

■一見軍人らしくないが、極めて優秀な参謀「チュン・ウー・チェン」

 まずは、同盟軍の宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコックの総参謀長を務めた「チュン・ウー・チェン」から紹介したい。

 軍人らしからぬ見た目から「パン屋の2代目」と揶揄されている人物である。アニメ版では、ビュコックのもとにパンを持って現れ、総司令官の前でそれを頬張って見せるという初登場シーンが印象深い。まさにパンならぬ、人を食ったような人物である。

 彼の進言は、実は歴史を大きく動かしている。印象的な場面は、帝国軍が同盟領内に侵攻してきたときの対応である。

 帝国軍がフェザーン経由で同盟領内に入った以上、大きな戦力であるヤン艦隊をイゼルローン要塞にとどめておく意味は薄くなった。だが、ビュコックは苦労して奪った要塞を放棄させることをためらう。

 このときチュンはビュコックに進言し、責任は総司令部がとるからヤンに最善と信じる行動をとるよう伝えさせ、行動の自由を与えたのである。

 その指示を受けたヤンは、帝国軍と戦うため、自発的に要塞を放棄することになるのだが、結果的に給料分以上に働くことになる指示を出したビュコックのことを「食えない爺さんだ」とぼやいていた。

 だが、実のところ本当に食えない人物は、ヤンにこの選択をとらざるをえない進言を行ったチュンだったのだから面白い。

 同盟を滅亡させたあとにラインハルトは、同盟が滅びたのは優秀な者たちが中堅以下の地位にとどまっていたからだと述懐している。それは決してチュンだけのことを指していたわけではないが、彼が総参謀長の要職に就いたのは同盟が滅びる直前のことだった。

 もし早い段階で、チュン・ウー・チェンのような優秀な人材が同盟軍の高い地位まで出世できていたら、自由惑星同盟の末路も多少は違うものになっていたのかもしれない。

■2人の英雄に仕えた人間味あふれる名参謀「ベルゲングリューン」

 続いては帝国軍、オスカー・フォン・ロイエンタールの参謀を務めた「ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン」を紹介したい。

 立派なヒゲをたくわえた人物で、そのたくましい容姿からは「豪気な男」という印象をいだかせる。だが、実はかなりまじめで繊細な性格をしており、見た目とのギャップに驚かされる。

 初登場時は、ラインハルトの幼なじみである若き提督キルヒアイスの幕僚として配属。当時は、若すぎる上官に対し「青二才」と不満をいだき、アニメ版ではやけになって公務中に酒を飲むという醜態まで晒している。

 しかし、キルヒアイスの鮮やかな作戦や手腕を目の当たりにし、彼の優秀さに気づくと、すぐに心を入れ替えることになる。

 そしてキルヒアイスの死後は、帝国軍の「双璧」として知られるロイエンタールの参謀として活躍。つねに冷静沈着なロイエンタールとは対称的に、ベルゲングリューンは感情豊かで人間味あふれる参謀だった。

 とはいえベルゲングリューンの能力は非常に高く、ロイエンタールも彼に無用な進言を聞かされたことは一度もないと評したほど。またベルゲングリューンはミッターマイヤーの幕僚であるビューローと友人関係であり、上官のロイエンタールとミッターマイヤーも親友同士という関係性も微笑ましかった。

 だが、そんな彼に再び悲劇が襲う。彼が仕えたキルヒアイスに続き、ロイエンタールまで若くして亡くすことになるのだ。

 敬愛する上官を二度も失ったショックに加え、ベルゲングリューンには少なからず自責の念もあったのだろう。最後は親友ビューローの説得もむなしく、ロイエンタールのことを信じなかったラインハルトに対する恨み節を残して自決するのである。

 豪快そうに見えて実は繊細な面がある彼の性格が垣間見える最期が悲しく、強く印象に残っている。

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