■醜悪な面構えで野心の塊を表現した『信長を殺した男』
明智光秀を主人公に、本能寺の変の真相に迫る『信長を殺した男 ~本能寺の変 431年目の真実~』(漫画:藤堂裕さん、原案:明智憲三郎さん)において、秀吉は信長への忠誠を装いながら、水面下で暗躍する策略家としての姿を見せている。
光秀の視点から信長との複雑な関係と本能寺の変の真相を描く本作において、秀吉は徹底して醜悪な人物だ。言葉巧みであり、平気で嘘泣きをしてみせるなど、まさに「人たらし」という印象だが、ただその裏では常に計算を働かせており、決して油断のならない狡猾さを秘めている。
(以下、物語の核心に触れるが)本作では、秀吉が本能寺の変を裏で操っていた黒幕の1人として描かれる。光秀の謀反の計画を事前に知り、膠着状態の毛利家との和睦交渉を迅速にまとめるなど、入念な準備を重ねて「中国大返し」を成功させた。
その際「信長様の敵討ち」という言葉を2回も使いながらも、その表情は何とも嬉々として野心に満ちあふれており、興奮を隠しきれていない。自身が天下を取るため、わざと信長を見殺しにするという野心の塊を表現していた。
続編となる『信長を殺した男 ~日輪のデマルカシオン~』では、秀吉自身が主人公となり、天下人と上り詰める一方、直接意見を交わせる弟・秀長の死や、懇意にしていた千利休の切腹などを経て、その孤独が次第に浮き彫りになっていく。
平民の出自で時代に虐げられながらも必死に駆け上ってきた秀吉のたくましさに加え、天下人としての孤独や哀愁といったさまざまな一面が描かれている点が、非常に面白かった。
戦国ゲームにおける豊臣秀吉は、どのような作品に登場しても総じて高い能力値を誇り、家臣に加えると一気にテンションの上がる武将だったものだ。そして、今回紹介した漫画作品からも分かるように、漫画の世界においても、面白さにあふれる魅力的な人物であることがうかがえる。
大河ドラマ『豊臣兄弟!』で秀吉を演じる池松壮亮さんが、どのような秀吉を見せてくれるのだろうか。放送が今から楽しみで仕方ない。


