2026年に放送予定のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、戦国時代に天下統一を果たした豊臣秀吉の弟・秀長を主人公とした物語である。
秀吉といえば、大河ドラマをはじめ、小説や漫画、歴史ゲームなど、戦国時代をテーマにした作品に数多く登場する、おなじみの戦国武将である。その人物像は作品によって違いはあれど、頭の回転が速く、主君・織田信長の有能な側近として活躍する姿が描かれているのが特徴といえるだろう。
そこで、秀吉が個性的かつ魅力的に描かれている漫画作品をいくつか厳選して紹介していこう。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■天下人として登場し、慶次の殺意を受け流す器量を見せた『花の慶次ー雲のかなたにー』
天下無双の傾奇者(かぶきもの)・前田慶次を主人公にした漫画『花の慶次ー雲のかなたにー』(原作:隆慶一郎さん、作画:原哲夫さん)において、秀吉は天下をほぼ手中に収めた天下人として、段階の序盤から登場する。
秀吉が猿に似ていたという逸話にちなみ、本作でもその猿面が強調されている。下品な笑い方が特徴的な、狡猾な天下人として描かれていた。
秀吉は慶次の傾奇者ぶりに興味を示し謁見を許すが、慶次は髷(まげ)を片方に寄せ、横を向きながら平伏する。これは、髷は頭を下げていても自分はそっぽを向いているという、天下人への無言の抵抗を示す慶次なりの意思表示であった。
だが、秀吉もまた常人ならざる傾奇者であり、この無礼を怒るどころか笑って受け流す。すると慶次は、お尻を紅く染めた着物で猿芸を披露するという、さらなる挑発行為に出る。内心では激怒する秀吉だったが、列席する大名たちの手前、あえて怒らずに寛容な姿勢で対応し続ける。
ただ、これ以上の無礼を許せば関白としての威厳が失われると感じた秀吉は、ついに慶次を斬ろうと動く。だが、その場の緊張感から真相を見抜いた徳川家康の表情を見て、斬るのを止めた。真意を探るべく、秀吉は背を向けた慶次を目掛けて扇子を投げつけると、振り向きざまにそれを掴んだ彼からただならぬ殺気が放たれるのを察知するのである。
実は慶次は、秀吉を殺害しようと目論んでいた。だが、隠し持った短刀では距離が遠く届かないため、あえて秀吉を怒らせて誘い出し、近づいたところを狙おうとしていたのだ。
殺気を見抜かれたと悟った慶次が一か八か飛び掛かろうとした瞬間、秀吉は「まず座れ」のひと言でその機先を制し、慶次を諦めさせた。
作中最強の武力を誇る慶次の殺意を前に、力ではなく機転でその場を収めた秀吉の器量の大きさは、まさに天下人のそれであった。
後の小田原征伐では、慶次が裏で活躍していた功績を正当に評価。直江兼続、後藤又兵衛、奥村助右衛門、伊達政宗、真田幸村といった名だたる武将が集う温泉シーンでは、一介の傾奇者にすぎない慶次を大大名クラスの「百万石」で迎えようと提案し、その懐の深さを見せつけた。
この温泉シーンで描かれる、全身が傷だらけの秀吉の肉体は、彼がただの狡猾な老人ではなく、幾多の戦場を生き抜いてきた確固たる「いくさ人」であることを象徴しており、非常に印象的だった。
本作における秀吉は、傲慢で嫉妬深い一面を持つ一方、どこか遊び心を持ちつつ、慶次のような人物を正当に評価する器の大きさも兼ね揃えた、多面的なキャラクターとして描かれていた。


