『仮面ライダー』シリーズのクリスマスは何かが起きる——。
クリスマス前後に放送される、いわゆる「クリスマス回」。本来なら温かなムードに包まれるはずの季節なのに、この『仮面ライダー』シリーズでは、突然メイン級キャラクターが退場するという、とんでもない展開が飛び出すことがある。華やいだ空気が一瞬で凍りつくほどの落差は、視聴者の記憶に鮮烈なインパクトを刻み込んできた。
今回は、その中でも特に印象深い3つの「クリスマス回」を振り返っていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■静かに散った異端の戦士『仮面ライダーアギト』「戦士その絆」
「平成仮面ライダー」初期を代表する『仮面ライダーアギト』(2001年から放送)。その12月23日に放送された第46話「戦士その絆」では、圧倒的な存在感を放っていた1人のライダーの退場が描かれた。
そのライダーの名は、木野薫。物語後半に登場した、主人公とは異なる進化を遂げたもう1人のアギト・仮面ライダーアナザーアギトである。
彼はサングラス姿の凄腕の闇医者であり、変身後は怪人めいたフォルムが印象的な渋さが光るライダーだ。その一方で、“アギトは自分だけで良い”という歪んだ信念を抱え、主人公・津上翔一/仮面ライダーアギトや葦原涼/仮面ライダーギルスと激しく衝突する。登場当初から“強キャラ感”を放つ、アンチヒーロー的な存在であった。
しかし、クリスマスを目前にして木野は非情な運命を迎える。ファルコンロード ウォルクリス・ファルコの急襲により、致命傷を負ってしまうのだ。さらに目の前では、翔一が毒に侵され倒れてしまう。
木野は自身の重傷を顧みず、医者としての使命を貫いた。麻酔なしの緊急手術で翔一の命を救い、その後の戦いではアギトやギルスと共闘。敵に3連続ライダーキックを炸裂させるという、熱い展開へとつながっていく。
だが、木野の肉体はすでに限界に達していた。
戦いを終え、涼と、自身を父親のように慕う高校生・真島浩二とともにリビングのソファに腰を下ろす。浩二が「医者を目指す」と将来を語ると、「そうか……お前ならできる」と安堵したように微笑む木野。そして穏やかに、「浩二……コーヒーを頼む……」と告げる。
浩二がキッチンへ向かった直後、涼が木野の異変に気づき声をかけると、彼はすでに息を引き取っていた。
クリスマス目前に起こった、強くて渋く、そして誰よりも思い悩んだ戦士の静かな退場劇だった。
■魂を燃やし、弟子へ未来を託した師…『仮面ライダー響鬼』「散華する斬鬼」
和の世界観でシリーズの中でも異彩を放つ『仮面ライダー響鬼』(2005年から放送)。クリスマス当日に放送された第45話「散華する斬鬼」では、ベテラン戦士の壮絶すぎる退場劇が描かれた。
ザンキ/仮面ライダー斬鬼は、エレキギターをかき鳴らすような“音撃”スタイルが魅力の熟練戦士である。主人公・ヒビキ/仮面ライダー響鬼と同世代であり、常に落ち着いた佇まいを見せる頼れる大人の戦士であった。しかし、古傷の悪化によって第一線を退いており、弟子のトドロキ/仮面ライダー轟鬼に後を託していた。
だが、そのトドロキが「再起不能」と宣告されるほどの重傷を負ってしまう。ザンキは覚悟を決め、再び変身し、戦場へ戻る。しかし、無理を押した代償は大きく、激闘の末に力尽きてしまう。川面に顔を沈め、一糸まとわぬ姿で息絶えている彼の姿はあまりに無残であり、当時の視聴者に強烈なトラウマと衝撃を与えた。
しかし、物語はここで終わらない。死んだはずのザンキが、なぜか再び病院のベッドで横になっているトドロキの前に姿を現すのだ。実はザンキは生前、自身に禁断の「返魂の術」(命を落としても一時的に蘇るが、やがて魂が永遠の闇へ堕ちる危険な術)を施していた。その身を削っても、“弟子を支えたい”という、彼の“師”としての覚悟の現れであった。
ザンキはトドロキのリハビリに寄り添い、再び魔化魍が現れれば危険を承知で戦場に向かう。その想いに応えるようにトドロキは奇跡的な復活を遂げ、2人は肩を並べて魔化魍を撃破。戦いの後におこなわれる2人恒例の「清めの儀式(演奏)」は、まさに師弟の絆を象徴する名場面である。
儀式を終え、トドロキが「もう大丈夫っすから……ありがとうございました」と深々と頭を下げたその瞬間、ザンキの姿はすでに消えていた。
最後の一瞬まで弟子を思いやり、その未来を託して永遠の闇へと消えていったザンキ。ヒーローである前に“師”であり続けた男の、生きざまが深く刻まれたエピソードである。


