■2度目の死の先で掴んだ力『幽☆遊☆白書』浦飯幽助
1990年から1994年にかけて連載された冨樫義博さんの『幽☆遊☆白書』は、戦いを重ねるほどに、主人公・浦飯幽助の正体や立場が揺さぶられていく作品でもある。
自分は人間なのか、それとも魔族なのか——その問いが劇的な形で突きつけられたのが、魔族としての覚醒だった。
「魔界の扉編」において、仙水忍に胸を撃ち抜かれ、2度目の死を迎えた幽助。しかし彼は、体内に流れる魔族の遺伝によって復活を果たす。その復活と同時に突きつけられたのが、「魔族大隔世」という衝撃の事実だった。
遠い先祖である大妖怪・雷禅の遺伝子が突然覚醒したことで、幽助は魔人として突然蘇生し、圧倒的な力を手に入れる。その際、幽助の意識を乗っ取った雷禅が幽助の体を使って戦ったのだが、仙水を前にしても力の差は歴然で、かなり一方的な展開となった。
だが、この覚醒が読者に強い印象を残すのは、力を得た後の幽助が葛藤し、迷い続けていた点にあるだろう。仙水に圧倒的に勝利したはずの状況で、幽助は「これは俺の力じゃない」と苦悩するのだ。人間ではなく、魔族の子孫としての自分。その受け入れがたい事実に直面し、幽助のアイデンティティは大きく揺らいでいくのである。
幽助の覚醒は、単なるパワーアップでは終わらない。“自分は何者なのか”という葛藤まで描き切った、ジャンプ史に残る名場面だろう。
■親友の死が開いた伝説『ドラゴンボール』孫悟空
1984年から1995年にかけて連載された鳥山明さんの『ドラゴンボール』は、強さを求めること自体を楽しむ主人公・孫悟空の物語である。
悟空はこれまで、恐怖よりも“もっと強いヤツと戦いたい”という好奇心で戦場に立ち続けてきた。だが、その悟空が初めて理性を失うほどの怒りを見せたのが、ナメック星でのフリーザ戦だった。
フリーザの圧倒的な力の前で、悟空は何度も希望を打ち砕かれる。そして、親友であるクリリンが爆殺された瞬間、悟空の中で何かが決定的に切り替わった。
怒り、悲しみ、そして許せないという感情。それまで戦いを楽しんでいた悟空が、初めて怒りのために力を解放したのである。
逆立つ金色の髪、鋭い瞳、激しい怒りを宿した表情、「オレはおこったぞーーーー!!!!! フリーザーーーッ!!!!!」この叫びとともに、孫悟空は秘められた力を解放し、超サイヤ人へと覚醒した。
この瞬間、悟空はただ強くなったのではない。物語そのものを新しいステージへと押し上げたのである。
ジャンプ作品における覚醒シーンが読者の心を打つのは、そこに必ず「代償」や「覚悟」が描かれているからにほかならない。
ゴンは未来を、ナルトは理性を、幽助はアイデンティティを、そして悟空は親友の死を背負い、新たな力を手にした。
彼らは皆、何かを失う痛みと引き換えに、あるいは守るべきもののため、限界を超えて前へ進んだ。だからこそ、その覚醒は今も読者の記憶に深く刻まれているのだ。
ジャンプ史に残る覚醒シーンとは、力を得た瞬間ではなく、何かを懸けて覚悟を決めた瞬間なのかもしれない。


