■モテまくりのバンドマン『NANAーナナー』一ノ瀬巧
矢沢あい氏の代表作の1つで、2000年から『Cookie』(集英社)で連載されている『NANAーナナー』にも、交際相手としては非常に厄介な男性キャラクターが登場する。それが、ヒロインの1人・小松奈々(ハチ)の夫となる一ノ瀬巧だ。
巧は人気バンド「TRAPNEST(通称:トラネス)」のベーシスト兼リーダーだ。バンドを成功に導く才能に溢れ、端整な顔立ちに加え、長身にロングヘアの黒髪という完璧なルックスを持つ。
これだけ見れば何の欠点もない“イイ男”に思えるが、彼は恋愛においては誠実とはいえない。彼は昔から特定の恋人を作らず自由奔放で、何人もの女性と関係を持つことを繰り返してきた。ハチとの関係も、当初は彼女が自分のファンという気持ちを利用した一夜限りのものであり、決して誠実な交際とはいえなかった。
作中、巧が潤んだ瞳で奈々に「おれは確かに浮気者だけど 本気で好きなのは奈々だけだよ」と告げるシーンがある。これは彼の本当の気持ちだったのかもしれないが、一方で巧はハチが自分を見放せないこと、そして“自分だけが特別”だという言葉に弱いことを見透かした上での発言のようにも思える。
結局ハチは妊娠を機に巧との結婚を選ぶのだが、その後も彼は自身のバンドのボーカリスト・芹澤レイラと関係を持ったりしている。
ハチとは気持ちが通じ合っているのかもしれないが、数々の女性を惹きつけてやまない魔性ともいえる魅力は、結婚後も一抹の不安として残るだろう。
今回紹介した魅力的な男性キャラクターたちと、もしも現実世界で付き合うことになれば、多くの困難が待ち受けていることは容易に想像できる。彼らに共通するのは「愛はあっても、平穏はない」ということだろう。
しかし、これら作品のヒロインたちはその試練を乗り越え、彼らの唯一無二の存在となっている。読者としては、その強靭な絆に敬意を表するばかりである。


